狙われない印
ミュレは、敵へ小さな印を描いた。
矢が通る場所ではなく、敵が守ろうとする場所。魔物の視線、筋肉の動き、痛みを隠す癖を見て、泥や粉で印を置く。
弓を引かない彼女の貢献は1%。隊長ハディスは、自分の射撃が正確だから印など不要だと言った。
「的へ色を塗るだけの者へ分け前は出せない」
ミュレは印粉を返し、後方へ下がった。
沼の多頭蛇が現れると、ハディスは最も大きな頭へ矢を放った。首が落ちるたび、泥から新しい頭が伸びる。仲間は増え続ける牙に囲まれた。
「もっと射て!」
矢は当たっている。だからこそ、敵は増えていた。
ミュレは沼岸から動きを見た。多頭蛇は中央の小さな頭だけを、ほかの首で隠している。彼女は印粉を失っていたため、自分の外套を泥へ浸し、丸めて投げた。
泥の印が、小さな頭の喉へ付く。
多頭蛇は初めて慌て、ほかの首をそこへ重ねた。守る動きそのものが本当の標的を示す。
ミュレが指した場所へ、仲間の攻撃が集まった。ハディスの矢も飛んだが、誰も彼だけを称えなかった。
帰路で仲間たちは、古い装備に残る色の跡を見つけた。盾の端、靴の踵、矢筒の裏。ミュレは敵だけでなく、味方が立つべき場所にも印を置いていた。混戦で互いを射抜かなかったのも、逃げ道を失わなかったのも、その小さな色が視線を導いていたからだ。消えかけた色ほど、彼女が長く働いた確かな跡だった。
帰還後、彼は最後の矢が決定打だったと主張した。
標的腕輪が過去の印を読み直す。硬い甲殻の薄い箇所、幻影の本体、逃げる敵の進路。仲間が正しく狙えたのは、ミュレが敵自身の反応から答えを描いていたからだ。
ハディスが印粉を掴もうとすると、容器の蓋が閉じた。
ミュレは新しい権限印を、自分ではなく仲間全員の地図へ押す。
「狙う場所は、撃つ人だけのものではありません」
《標的貢献・真正算定》
申告値:1% → 真値:97%
働き順位:首位 ミュレ
役割更新:印付け係 → 標的指定権者
旧隊長ハディス:射撃承認待ち