猫砂の部屋番号

ごみ集積所に、破れた猫砂袋が毎週置かれた。

中身は水分を含み、臭いが強い。指定袋にも入っていないため、収集車は残していった。

清掃を続ける住人の花菱野朔美へ、猫を飼う十文字谷将悟は言った。

「猫を飼ってる家なんて何軒もある。俺を疑うなら証拠を出せよ」

将悟はむしろ、朔美が猫嫌いで袋を破っていると管理会社へ訴えた。掲示板には〈動物虐待予備軍〉とまで書いた。

ある朝、猫砂が集積所から廊下へ流れ、子どもが滑って転んだ。

大家は臨時調査を決めた。

集積所のカメラには、将悟が指定袋へ入れず、猫砂の袋をそのまま投げる姿が映っている。だが将悟は、映像が古いと言い張った。

袋側面の印刷に注目したのは、朔美だった。

通販限定商品の発送管理番号が残っている。販売会社へ弁護士照会を行うと、その番号は将悟の部屋へ配送された箱と一致した。配送完了写真にも、玄関前で受け取る将悟の姿がある。注文履歴では、同じ商品を毎月四袋ずつ継続的に大量購入していた。

さらに将悟の部屋は、契約上ペット飼育不可だった。

「一時的に預かってるだけだ」

将悟が言うと、玄関カメラの記録が示された。二年間、同じ猫を抱いて出入りし、ベランダには三匹分のケージがある。猫たちは登録も予防接種もされず、室内には使用済み砂が山積みだった。

大家は、無断飼育、不適正な廃棄、衛生被害、他住人への中傷、警告違反を理由に契約解除を通知した。猫については動物保護団体と連携し、健康確認を行うことになった。

将悟は朔美へ声を落とした。

「猫を奪うつもりか。袋のことは謝るから、飼ってることだけ黙ってくれ」

朔美は保護団体の担当者を指した。

「猫を守るのは、あなたの秘密を守ることではありません」

団体が三匹を診察へ連れていき、管理会社は掲示板の中傷文を削除・保全した。

猫砂袋の発送番号と将悟の部屋番号が調査記録へ並んだ瞬間、朔美へ付けられた濡れ衣は消え、将悟の部屋だけが猫より先に契約を失った。