王都中の影が膝をついた

稲葉瑛士の鑑定は、真昼の中庭で行われた。

影属性を嫌う光の王国では、太陽を増幅する鏡を百枚並べ、能力を隠せないようにするという。瑛士が光柱へ入ると、鑑定碑には《魔力0》と刻まれた。

「魔力ゼロ。影すら持たぬ薄っぺらな男だ」

光法院長が笑った。

確かに瑛士の足元には影がない。だが消えたのではなく、王都中の影とつながっていた。

《影勅》

つながるすべての影へ、一度だけ命令を下す。

視界の下には、接続数が表示されている。

人間十二万四千。

建造物三万一千。

魔獣二百八。

地下封印一。

最後の項目だけが赤く点滅していた。

鑑定式を見守る王が尋ねる。

「地下封印とは何だ」

光法院長が一瞬だけ顔をこわばらせる。

「表示などありません。外れの妄言です」

その直後、中庭の石床に亀裂が走った。

王都の地下には、夜を喰う古代竜が封じられている。百枚の鏡は鑑定のためではなく、封印が弱まったことを隠すための照明だったのだ。亀裂から黒い翼の先が現れ、太陽光を吸い始める。

法院長が逃げる。騎士は剣を抜くが、影を喰われ、次々と力を失った。

瑛士は動かなかった。

古代竜も、王も、逃げる法院長も、一つの影でつながっている。

彼は一度だけ命じた。

「跪け」

《影勅》

最初に膝をついたのは、地下の古代竜だった。

地面の下で巨体が伏し、突き出していた翼が静かに引っ込む。次いで王都中の影が主から離れ、瑛士の方角へ膝を折った。塔の影は細長い騎士となり、城壁の影は巨大な腕を地へつく。百枚の光鏡でさえ、縁に黒い影を生み、頭を下げた。

命令は影に対してだけだった。

それでも自分の影に先を越された王は、玉座から立ち上がった。騎士も神官も市民も、つられるように姿勢を正す。逃げていた法院長だけは、影に足を縫われ、跪いたまま動けない。

鑑定碑の《0》が、内側から黒く塗り潰された。

代わりに一文が浮かぶ。

《影の総数は測定不能》

瑛士の足元へ、王都すべての影が戻ってくる。

さっきまで薄っぺらだと笑った者たちは、自分の影が誰に従うか知ってしまい、もう彼から目をそらせなかった。