画面の端の気泡

弟の新しい保護フィルムは、三日前から食卓の端に置かれていた。

余命を告げられて帰宅した日の夜、梶原未由はようやく箱を開けた。

新品の箱は三日前から食卓にある。弟は自分で貼ると必ず斜めになり、未由へ頼んだまま部活へ行った。今朝も「今日こそ」と念を押された。病院の予定を知っていたのに、結果については聞かなかった。

弟が帰るまで二十分。未由は洗面所へスマートフォンと箱を持ち込んだ。埃の少ない場所で貼るなら、風呂上がりの浴室がいいと説明書にある。風呂はまだなので、シャワーを一分だけ出し、湿気で空気を落ち着かせた。

古いフィルムを剥がす。角に入った亀裂が、ぱり、と細く鳴る。画面には指紋が何重にもつき、ゲームの操作部分だけ丸く曇っていた。

付属の布で拭き、アルコールシート、乾いた布の順。画面を斜めにして照明を映し、小さな埃を丸いシールで取る。一つ取ると、その横にもう一つ見えた。未由は一つ見つけるたび、顔を近づけた。診察室で画像を見せられたときより、ずっと真剣だった。

玄関が開き、弟が「やってる?」と洗面所へのぞき込んだ。

「入らないで。埃」

「結果は?」

「あとで」

弟は何か言いかけ、扉を閉めた。廊下から、制服の鞄を置く音がする。

未由は位置合わせ用の細いシールを左右へ貼った。新しいフィルムの一番を剥がし、受話口の位置へ合わせた。上端は合った。下ろしていくと、透明な面が自分から画面へ吸いつき、中央から色が変わる。

右下に気泡が一つ残った。

付属のへらで押す。気泡は端へ動き、途中で二つに分かれた。弟が扉の向こうから「失敗?」と聞く。

「増えた」

「予備ある?」

「ない」

「じゃあ成功させて」

未由は笑わず、へらを寝かせた。小さい気泡から追い出し、次に大きいほうをゆっくり動かす。途中に埃があれば消えない。けれど気泡は止まらず、画面の縁まで進んだ。

弟が扉を少し開け、隙間から息を止めて見ていた。最後の丸が銀色の枠へ触れる。未由がもう一度へらを押すと、空気は端から抜け、画面全体が平らになった。