白い体操服の勲章
瑞葉は、汚れるのが嫌いだった。
騎馬戦の日も、障害物競走の日も、転ばない走り方を選んだ。速さより、白い体操服を白いまま持ち帰ることが大事だった。クラスの壱路は、それを「体育祭の参加方法として正しい」と笑った。朝から転ぶたび泥を増やしていた彼とは、隣に並ぶだけで色が対照的だった。
最後の競技は、学級対抗の障害リレーだった。
瑞葉は第五走者。網をくぐり、平均台を渡り、最後に泥の浅い穴を跳び越える。前日の雨で、穴は予定より広がっていた。
「無理なら横を通っていい」
係の先生は言った。ただし五秒加算される。
バトンは一位で来た。二位との差はほとんどない。
瑞葉は網をくぐった。肘に砂がつく。平均台で靴底が滑る。泥の穴の前まで来た時、向こう側で最終走者の壱路が手を伸ばしていた。
「横でいい!」
彼は叫んだ。
瑞葉は一瞬、右を見た。乾いた道がある。五秒。白い服。応援席からは「横でいい」と「跳べ」が同時に聞こえた。壱路だけは何も言わず、差し出した手を少し低くした。届かなくても受け止めるつもりなのだと分かった。
次の瞬間、正面へ跳んだ。
距離が足りず、両膝から泥へ落ちた。冷たい水が腹まで跳ねる。観客席から悲鳴と歓声が同時に上がった。
それでもバトンだけは高く掲げていた。
泥から立ち上がり、壱路の手へ渡す。彼は走り出す前に、瑞葉の掌を強く叩いた。泥の膜が二人の手の間ではじけ、きれいな乾いた音はしなかった。それがかえって、瑞葉には勝ち名乗りのように聞こえた。
「白、終わったな!」
「勝ってから言って!」
壱路は笑いながら駆けた。
クラスは一位になった。みんなが壱路を囲む中、瑞葉は泥の穴のそばで、自分の体操服を見下ろした。胸から膝まで茶色。いつもなら泣きたくなるはずなのに、どうしてか誇らしかった。
戻ってきた壱路が、自分の白い袖で瑞葉の頬を拭いた。袖にも泥がつく。
「これで同罪」
二人はもう一度ハイタッチした。
洗濯すれば、泥はほとんど落ちた。けれど膝のところに薄い染みが残った。
瑞葉は次の体育の授業でも、その体操服を着た。
誰にも分からない薄さだったが、彼女には金メダルよりよく見えた。