百壺すべて同じ重さ
《月雫クリーム》は、買う瓶ごとに中身が違った。
ある瓶は油が多く、ある瓶は水っぽい。職人は「手作りの味」と呼んだが、王妃用の百壺まで固さがばらばらで、納品前日に半数が返品された。
計量係へ落とされたミレアは、前世で化粧品工場の品質管理をしていた。彼女は名人の勘を覚えようとせず、材料をすべて重さの割合で書き直した。
「花油は銀匙三杯、乳液は木杓子二杯だ」
親方は古い配合帳を叩く。だが銀匙は職人ごとに大きさが違い、木杓子には山盛りの日も平らな日もある。ミレアは天秤を置き、完成量を百としたとき各材料が何になるかを一枚の表へした。
若い職人三人が、その表だけで別々の鍋を作る。
親方は絶対に違う物になると笑った。ところが冷却後、三つの鍋は同じ白さ、同じ香り、同じ固さになった。透明板へ同量を置いて傾けると、三本のクリームは同じ位置で止まる。
さらに百壺へ詰め、一本ずつ量った。最も重い壺と軽い壺の差は小豆一粒分。従来品では銀貨三枚分も違い、客が損をしたと怒るのも当然だった。
親方は数字では花の季節差を扱えないと言った。ミレアは花油の重さだけを変えず、濃さの差を香り見本と照らして薄めた。同じ割合へ戻すと、春油も夏油も香りの強さが揃った。
作り直し時間は従来の二日から半日。余った材料は十八桶から一桶へ減り、廃棄金額は九割以上消えた。
王妃付きの侍女が無作為に十壺を開けた。どれを左右の手へ塗っても差がない。親方が秘伝だと言い張った一番壺も、若い職人の八十七番壺と見分けられなかった。
翌週分の五百壺も、配合表を渡された新人だけで完成した。親方が休んでも生産は止まらず、検品で弾かれたのは蓋に傷のあった一壺だけ。中身の不良はゼロだった。
商会主は、名人一人へ払っていた特別手当より少ない費用で生産量が二倍になる計算を見た。親方は秘伝を盗まれたと叫んだが、ミレアの表は誰が作っても同じ物になるためのもので、誰かの手柄を奪うものではなかった。若い職人たちは初めて自分の壺へ合格印を押した。
侍女長は返品札を外し、百壺へ納品印を押す。
「王宮年間四千壺。製造管理はミレアに一任します」