百斤南瓜と小さな鍋
巨人族のメルツァは、王都の倉庫で何でも運ばされた。
樽を百、石材を二百。彼女が腰を痛めても、「大きいのだから平気だろう」と誰も荷を減らさなかった。とうとう倒れた日、働けない巨人は不要だと辺境へ捨てられた。
荒れ畑の中央には、家ほど葉を広げた南瓜が一個だけ転がっていた。重さは百斤を超える。脇に銀色の魔法収穫鉤《軽摘み》が刺さっている。切った収穫物の重さを、持ち手が望む分だけ軽くする農具だった。
王都なら、また全部運べと言われただろう。
メルツァは初日の仕事を、南瓜一個を蔓から外すだけにした。
鉤刃を太い蔓へ掛ける。刃が青く光り、ぱちんと切れた。
地面が揺れると思った。だが南瓜は、羽毛のようにふわりと浮いた。メルツァが両手で抱えると、赤子ほどの重さしかない。
腰の古傷が、持ち上げる前の恐怖だけで鈍く痛んでいた。倉庫では「巨人が軽い荷を選ぶな」と笑われ、壊れそうな日にも重い側を渡された。
「軽くしていいのか」
思わず農具へ尋ねた。
収穫鉤は答えない。ただ柄が、当然だというように温かかった。
魔法は重さを消したのではない。必要な分だけ大地へ預け、運び終えたら戻せるらしい。無理をしないことと、価値を失うことは同じではなかった。
彼女は南瓜を小屋まで運び、戸口へ置いた。全部を料理する必要もない。小さな鍋に入る分だけ、橙色の身を一切れ切る。残りは明日以降の食料だ。
鍋で山羊乳と煮ると、南瓜はゆっくり崩れた。木匙で混ぜるたび、とろりとした湯気が上がり、甘い香りが古屋へ広がる。
そこへ王都倉庫の監督官から魔信が届いた。
『荷役不足。復帰すれば寝床を返す。明朝までに回答せよ』
返す、という言葉にメルツァは笑った。あの寝床は、彼女の体より短かった。
魔信板を伏せ、椀へスープを一杯だけ注ぐ。巨大な南瓜から作ったのに、今夜必要なのはこの量で十分だった。
「重いものは、持たなくていい」
自分へ言ってみる。
椀は軽く、湯気は柔らかい。メルツァは両手で包み、初めて誰にも急かされず、小さな匙で甘い夕食を食べた。