眠りを縫い込む夜着

 紺色の夜着を着て誰かの隣に横たわると、その人は苦痛なく眠れる。ただし一時間眠らせるごとに、着る者は未来の一晩を失う。

 ナディアの婚約者キリエは、夢喰いの棘に刺されていた。

 眠れば悪夢に心臓を止められ、眠らなければ三日で身体が壊れる。治療薬が完成するのは三十日後。それまで夜着の魔法で眠らせれば助かる。

 三十日、毎夜八時間。

 代金は二百四十晩の不眠だった。

 二百四十晩あれば、冬が二度近く過ぎる。眠れない夜は翌日の判断を鈍らせ、治療院で薬を取り違えるかもしれない。友人の祝いで笑えず、些細な音に苛立ち、鏡の下に消えない影ができるだろう。眠りを渡すことは時間を渡すことではない。これからの自分の穏やかさを、少しずつ削って差し出すことだった。

 それでもナディアには、彼を救うだけの話にしたくなかった。代償を美しい自己犠牲として受け取られたら、いつか必ず憎むと思った。だから醜くなる未来まで、先に二人のものにしようとした。

「別の方法を探そう」

 キリエは青い唇で言った。

「三十日も眠っていたら、君の誕生日を祝えない」

「起きていても、あなたは死ぬ」

「でも君は、そのあと二百四十晩も眠れない」

 ナディアは計算した。仕事で失敗する夜。理由もなく泣く明け方。隣で眠る彼を恨んでしまう瞬間。二百四十晩は、愛だけではきれいに耐えられない長さだ。

 だからこそ、彼には黙って受け取らせたくなかった。

「助かったあと、私はたぶん優しくない日がある」

「うん」

「眠れないことを、あなたのせいにする日も」

「そのたび朝食を作る」

「二百四十回?」

「焦がした分は数えないで」

 ナディアは笑い、夜着の一番上のボタンを留めた。

 キリエの隣に横たわる。裾の銀糸が二人の足元を結び、彼の荒い呼吸が静かになった。

 一時間目の砂時計が落ち切る。

 未来のどこかから、一晩の眠りが抜き取られた。瞼の裏に、白い朝が一つ増える。

 キリエは安らかな顔で眠っている。

 ナディアはその頬に触れ、二百四十晩分の最初の代金を受け取った。

 窓の外が明るくなっても、彼女の目は一度も閉じなかった。