砂糖の台座
製菓コンクールの厨房で、審査委員の甘利が巨大な飴細工の前に立ったまま死んでいた。両脚は透明な糖の台座へ膝下まで埋まり、冷えてガラスのように硬い。砕けば飛散片が遺体を傷つけるため、温水で徐々に溶かすまで動かせなかった。
最終審査に残ったのは鏡田、美登、六角の三人。甘利は採点買収の証拠をつかみ、失格者を発表すると告げていた。鏡田はチョコレート室、六角は公開実演台に映り、美登は「倉庫で型を探していた」と言う。三人とも砂糖を扱えるが、それぞれの加熱器は温度と時刻を自動保存する。完成作のテーマは奇しくも『永遠』だった。美登は硬い笑顔で、台座まで自分の作品ではないと言い張った。
厨房には甘い焦げ臭さが残っていた。私は台座を割らず、三つの事実だけを選んだ。
第一。台座はほぼ無色透明だった。使われたイソマルトは百六十度以上まで加熱しなければ、この透明度にならない。
第二。甘利の靴下もズボンの裾も焦げていない。熱い糖へ生きたまま踏み込んだのではなく、布を焦がさず、なお粘る温度まで下がった短い時間に遺体の脚を差し込んだ。
第三。指紋認証式の三台のうち、午後十一時四十二分に百七十度まで上がった記録は美登の加熱器だけで、彼の右親指には新しい火傷防止テープが巻かれていた。鏡田と六角の器具は一時間前から封印されている。
美登は記録を誰かが作ったと訴えた。鏡田が台座へ照明を当てると、透明な糖の中で甘利の靴紐までくっきり見えた。
美登は甘利を殴って殺し、自分の鍋で透明になるまで熱したイソマルトを型へ流した。温度が下がって布を焦がさず、なお固まっていない瞬間に遺体の脚を差し込み、台座として固定したのである。透明度が必要な最高温度を、無傷の靴下が挿入時の温度帯を、加熱器の履歴が作った者を示す。仕掛けは冷えて固まる砂糖一つ。美しい透明さを狙ったほど、犯人の調理記録まで隠せなくなった。 固化時間は短く、他の二人の映像が途切れない間に行えた者も彼だけだった。