社内表彰の翌朝

古御門達惟と日暮坂遥乃は、年間最優秀営業賞を同時受賞した。

表彰式の壇上で、達惟は妻の綾瀬川咲緒を紹介しなかった。祝賀会で遥乃と腕を組み、咲緒へ聞こえる声で言った。

「家で待つだけの人には、この世界は分からない」

遥乃も笑う。

「結果を出す人同士のほうが、話が合いますよね」

咲緒は拍手だけして帰った。

翌朝、受賞者二人は社長室へ呼ばれた。机には、昨夜の賞牌と、監査報告書が並んでいる。

達惟と遥乃は同じ顧客訪問を別々に申請し、交通費と宿泊費を二重請求していた。訪問先の担当者は、二人が半年以上顔を出していないと回答。代わりにホテルの駐車記録と配車履歴が、二人の行き先を示していた。

「営業上の秘密です」と遥乃は言った。

監査役は、ホテルの宿泊者名簿、同室用の鍵二枚、社用携帯の位置情報を提示した。社内チャットには、咲緒を“ただの扶養家族”と呼び、出張名目で会う相談まで残っていた。

証拠の入口は、咲緒が保管していた達惟の経費明細だった。夫婦の税申告に必要な書類へ、同じ日の宿泊費が二件ずつ載っていたため、弁護士を通じて会社へ通報したのだ。

達惟は咲緒が自分の出世を妬んだと言った。

社長は賞牌を裏返した。

「この数字は、虚偽経費と同行した部下の売上を付け替えて作ったものだ。結果を出したのは君たちではない」

二人の受賞は取消し。懲戒解雇と、不正経費・賞与の返還請求が決まった。

咲緒の代理人からも、不貞慰謝料の請求書が届く。達惟の両親は、息子を親族経営の会社へ迎える話を撤回し、実家の保証も外した。

遥乃は社長へすがった。

「昨夜、全社員の前で表彰したばかりです」

「だから今朝、全社員へ訂正する」

社内ポータルに公告が掲載された。

〈最優秀営業賞――該当者なし〉

〈古御門達惟・日暮坂遥乃――懲戒解雇〉

総務担当が二枚の賞牌から名前のプレートを外す。

金属片が机へ落ちた瞬間、二人が誇った“結果”は不正の証拠へ変わり、家で待つだけと笑われた咲緒の通報だけが、会社を守った実績として残った。