穴あき金貨
城外の聖堂で、アレクシン・ドラヴァは身代金袋を逆さにした。
金貨が石卓へ広がる。百枚目のあとに、穴の開いた一枚が転がった。穴には紫の絹糸が通されている。
こちらが返すのは敵都の将軍ユスティオ。向こうが返すのはアレクシンの弟マルコ。金貨百枚は、弟が受けた傷への賠償という名目だった。
穴あき金貨は、東都の傭兵門番が使う合図だ。紫糸を通した貨幣を城外から掲げれば、夜襲から戻る将軍の命令として青銅門を開く。
ユスティオが身代金袋へ忍ばせたのだろう。交換後、自分が城へ戻る途中で協力者に袋を奪わせ、合図を送るつもりだった。
「一枚多い」とアレクシンは言った。
敵使が肩をすくめた。
「傷への利息だ」
「親切な将軍だな」
ユスティオは黙っている。視線だけが穴あき金貨を追った。
アレクシンは貨幣を他の百枚と一緒に袋へ戻した。気づいていないふりをする。ここで抜けば、敵は別の合図へ変える。
聖堂の左右の扉が開き、人質二人が入った。
マルコは左腕を吊り、頬が痩せている。ユスティオは鎖を外されても背筋を曲げなかった。双方の護衛は祭壇から十歩離れ、剣を鞘に納める。
「袋を弟へ渡せ」と敵使が言った。「賠償は本人のものだ」
都合のよい提案だった。袋はマルコがこちらへ運び、途中で敵の間者が奪う手筈なのだ。
アレクシンは袋を弟の肩へ掛けた。
「重いぞ」
「片腕でも持てる」
マルコの目が一瞬だけ動いた。兄が余計な言葉を使う時は、何か入っていると知っている。
交換が始まる。
二人は祭壇前ですれ違った。ユスティオはマルコの肩へ触れ、袋の位置を確かめようとした。マルコは傷んだ腕をわざと振り、将軍の手を払った。
それぞれの扉へ入る。
敵側の修道士が床へ箒を落とした。間者の合図だ。だがマルコは袋を抱えたまま、アレクシンの側へ来た。
聖堂外で短い乱闘が起きた。袋を奪おうとした男を、味方の兵が柱へ押さえつける。ユスティオはすでに敵の騎馬へ乗っていた。交換を取り消すには遅い。
アレクシンは袋から穴あき金貨を出した。
東都の青銅門は、聖堂から見える丘の向こうにある。城壁上の門番は、月明かりに光る金と紫糸だけを見て合図を判断する。誰の手かまでは見えない。
「将軍が戻る前に使う気か」とマルコが問う。
「戻ったから使える」
アレクシンは長槍の穂先へ金貨を結び、丘の上へ掲げた。三度、左右へ振る。
遠い城壁で灯火が一つ消え、二つ点いた。門番が合図を受けた印だ。
ユスティオの騎馬が城へ近づく。自分の仕掛けが先に使われたとは知らない。
アレクシンは兵へ兜をかぶらせた。
丘の向こうから、巨大な蝶番の音が響く。
「全隊、青銅門へ」
命令が下り、敵都の門が内側から開き始めた。