第四弦は鳴らない
エステバン・ロスコのリュートには、四本目の弦だけ新しい羊腸が張られていた。
弦巻きの軸へ、髪ほど細い羊皮紙を巻き、その上から弦を締めてある。密書は〈夜半、火薬門の番兵を宴へ移す。鐘一つで内鍵を外せ〉。紙を取り出すには、第四弦を切り、軸を抜くしかない。
エステバンは旅芸人として、包囲軍の前夜宴へ呼ばれた。将軍ドン・バレロは、明日の勝利を今夜祝う男だった。敗北を考えぬ者は、警備も宴の飾りにする。
門で兵が楽器の胴を叩き、裏板を外した。空洞には何もない。
「弦も切るか」
エステバンが訊く。
「演奏できぬ芸人を、将軍へ出せるか」
兵は笑い、通した。
宴席には捕らわれた城の楽器師ルイス・アルメダがいた。弦が切れれば直す役として、壁際に座らされている。彼が密書の受取人だった。
エステバンは三曲目で、第四弦をわざと強く弾いた。だが切れない。新しい羊腸は予想より粘った。
バレロが杯を掲げる。
「次は城主の葬送曲だ」
時間がない。エステバンは右手の人差し指を弦の下へ入れ、左手で軸を一気に回した。弦が肉へ食い込み、指先を裂いて、ようやく切れた。
音が鞭のように鳴った。
「下手な細工だ」
将軍の目が細くなる。
「古い弦です」
「門では新しいと言っていたぞ」
門兵が余計なことを覚えていた。
バレロは護衛へ顎を振った。
「楽器師に直させろ。軸を調べろ」
ルイスが前へ出た。血のついた第四弦を外し、軸を抜く。巻かれた紙が見えた瞬間、彼は咳をして掌へ隠した。
護衛は軸穴へ針を通し、何もないと告げた。
「紙はあったか」
「羊脂だけです」
ルイスは切れた弦を火鉢へ捨てた。密書は袖の中にある。
バレロはエステバンの血の指を杯へ浸した。
「葬送曲を続けろ」
三本の弦で、エステバンは弾いた。足りない音があるほど、曲はよく聞こえた。
曲が終わるまで、エステバンは血の指を弦へ押しつけた。三本しかなくても、客は四本目の音を記憶で補う。密書も同じだった。紙に書いた一行より、宴席から消えた番兵の数をルイスが補えば、作戦は完成する。
夜半、城の鐘が一つ鳴る。
ルイスが火薬庫番へ低く命じた。
「火薬門の内鍵を外せ」
厚い鉄扉が、宴の歌へ向かって開いた。