結果通知を二人で開く
環と直央は、一つの海外研修枠を争っていた。
同期で、親友に近くて、恋人ではない。企画書を互いに読み合い、面接用の英語を練習し、落ちた場合の慰め方まで冗談で決めた。応募前から「結果は一緒に開こう」と約束したのに、環は直央を好きだと気づいてから、その約束を後悔した。どちらが選ばれても、告白は同情か優越に見える。自分が受かれば勝者の余裕、直央が受かれば置いていかれる不安。気持ちをどちらの結果にも汚されたくなかった。だから結果が出るまでは言えなかった。
通知予定は二十三時。二人は別々の部屋からビデオ通話をつなぎ、受信箱を更新した。
「どっちでもいいね」
「環、それ三回目」
「だって仕事だし」
「本当にどっちでもいい?」
「うん」
画面を閉じれば逃げられる。環の背後では洗濯機が終了音を鳴らし、直央の部屋では湯が沸いた。いつもの夜の音だけが、結果前の二人をつないでいた。でも通知を一緒に開く約束が、二人を小さな四角の中へ留めていた。
二十三時三分、同時にメールが届く。件名は同じ。《選考結果のお知らせ》。
「せーので開く?」
「待って」
「怖い?」
「直央と今まで通りじゃなくなるのが」
言ってから、環は口を押さえた。直央は笑わず、待った。
メールを開く。選ばれたのは直央だった。環の不採用通知には、丁寧な定型文が三行並んでいた。胸は痛んだが、画面越しの直央が黙っていることの方がつらかった。
「おめでとう」と環は言った。声は意外なほど普通だった。
「ありがとう。でも通話、切らないで」
「報告する相手、いるでしょう」
「最初は環がいい」
環は、四度目になりかけた「どっちでもいい」をやめた。
「どっちでもよくない。選ばれたのが直央で悔しいし、直央だから一番うれしい」
直央の画面の向こうで、研修先の時差を調べるキーボード音がした。
環は通話終了ボタンから指を離し、共有していた予定表に《出発前の反省会》を追加した。朝まで話すつもりはなかったのに、充電器を差し込んだ。