給料日の生配信

鵠沼テクノロジーの全社会議は、投資家向けにも生配信されていた。

鵠沼壮真社長はステージ中央で、今月の資金調達を自慢したあと、開発責任者の櫛田依子を呼びつけた。

「また残業代の話? 会社が赤字なのに、自分の給料だけ守る人は経営者目線がない」

コメント欄に笑う絵文字が流れる。鵠沼が自分で雇った広報スタッフの投稿だった。

依子はマイクを受け取った。

「では、経営者目線で報告します」

大型画面が切り替わり、社員五十三人の退職通知が表示された。全員、就業規則に従って提出済み。引き継ぎ資料も、顧客ごとに暗号化して保管してある。サービスを止めるコードは一行も書かれていない。鵠沼が止めたのは、給料の振込だけだった。

鵠沼は笑った。

「脅しは逆効果だ。ストックオプションも全部失うぞ」

「失いません。そもそも発行されていませんでした」

依子が登記情報を映す。社員に約束された株式は一株も割り当てられず、鵠沼が説明していた資金調達も、役員個人への貸付金に流れていた。

配信画面に、投資ファンドの代表が参加した。

「デューデリジェンスで確認しました。本日の送金は中止します」

鵠沼の笑顔が止まる。

「待ってください。技術は会社にあります」

「技術を作った人たちは、当ファンドが支援する新会社へ移ります。櫛田さんを代表に、顧客二社も契約を切り替えると決定しました」

会場後方の扉が開き、労働基準監督署の職員が入った。依子たちが提出した勤怠ログと、残業申請を自動削除するプログラムの確認だった。鵠沼自身が今朝、「証拠を消せ」とチャットへ書き込んでいた。

同時に、画面右下へ銀行からの通知が出る。増資実行を前提としたつなぎ融資は停止。給料日の振込残高は不足していた。

鵠沼は配信を切ろうとしたが、管理権限は取締役会へ移されていた。

ファンド代表が議案を読み上げる。

「代表取締役解任、破産申立て、新会社への事業譲渡。賛成多数です」

コメント欄から笑う絵文字が消え、〈議案可決〉の文字だけが残る。

生配信が終わる前に、鵠沼の経営だけが先に終了した。