羽根印の窓口
「羽根印の窓口へどうぞ」
天騎士ギルドの受付係クレハは、飛行許可証へ羽根形の印を押す。
騎手の体重、鞍の傷み、風向き、相棒となるグリフォンの機嫌。派手な空中戦より、彼女が気にするのは細かな数字ばかりだった。翼を持たない人族であるため、訓練生から陰で「地上係」と呼ばれている。
声を失った訓練生リュトは、書類運びの途中で受付台の裏にいた。
その朝、厩舎の天井を突き破って雷鳥《蒼天喰い》が降りた。
誰かが封印杭を抜き、王都の飛行隊を一度に焼くため呼び寄せた災害獣だ。青い翼が開くだけで、窓の外の雲がすべて雷へ変わる。
騎士たちは相棒を守ろうと駆け出したが、雷圧で床へ押し伏せられた。
クレハは受付台に残り、書類の角をそろえている。
蒼天喰いが嘴を開く。
王都を貫く稲妻が生まれた瞬間、彼女は羽根印を空中へ押した。
ぽすん、と間の抜けた音がした。
巨大な稲妻は一枚の青い羽根へ変わり、受付台へ舞い落ちる。
雷鳥が驚いて首を引くより早く、クレハはその羽根で許可証へ署名した。
《飛行不可。理由――無許可侵入》
文字が光ると、蒼天喰いの翼から「飛ぶ力」だけが消えた。巨体は落下したはずなのに、彼女が片手を上げると羽毛一枚ほどの軽さで掌へ収まる。次の瞬間には、小さな青い雛になって受付籠で眠っていた。
印章の側面に、古代天騎士文字が浮かぶ。
《天騎士ギルド創設者・最初に空へ許可を与えた者クレハ》
空が自由なのではない。彼女が今も、飛ぶ者すべてを見逃しているだけだった。
クレハは壊れた天井を雲で塞ぎ、焦げた床を濡れ布で拭く。散った羽毛と瓦礫は受付籠へ集め、書類の順番まで元へ戻した。倒れていた騎士たちが起きたころには、落雷で迷い込んだ雛を保護したことになっていた。
リュトは震える指で「誰にも言いません」と手話する。
彼女は同じ手話で「書類を落としています」と返した。
足元には飛行許可証が散らばっていた。
午後、体重欄を空白にした騎士が迷っている。
クレハは奥の窓口を示した。
「羽根印の窓口へどうぞ」