老門番と白虎の革靴
白虎ラガンは王宮正門の守護獣だった。
かつては侵入者だけを見抜く賢獣だったが、近頃は門を通る誰にでも唸り、とうとう王太子の馬車まで止めた。若い兵士たちは「老いて気性が荒れた」と槍を向ける。
退役間近の門番ボルグは、三十年その虎を遠くから見てきた。ラガンが行き来するたび、歩幅が短くなっていることにも気づいていた。
「門を守っているのではない。歩けないんだ」
彼は兜を脱ぎ、槍も置いて近づいた。白虎が牙をむく。王太子は馬車の窓から「噛まれても年金は出ぬぞ」と笑った。
ボルグは気にせず、自分の古い革靴を脱いだ。底には冬の塩で割れたひびがある。
「俺たちは同じだな。石床は年寄りに厳しい」
ラガンの前足も、大理石を滑り止めに撒いた塩で乾き、肉球が深く裂けていた。白い毛に隠れ、誰にも見えなかった傷だ。
ボルグは門番用の革脂へ薬草を混ぜ、まず自分の踵へ塗った。次に手を差し出す。ラガンは低く唸りながらも、ひび割れた足を一歩だけ前へ出した。
傷を洗い、脂を塗り、柔らかな子羊革で四つの靴を作る。白虎は一足履かされるたび、不思議そうに足を持ち上げた。
最後の靴を結ぶと、ラガンは門の前をゆっくり往復した。痛みなく踏みしめられると分かった途端、尾が初めて穏やかに揺れる。
その直後、王太子の馬車を再び止めた。調べると車軸の留め具が抜けかけており、そのまま走れば転覆していたという。白虎は狂ってなどいなかった。
国王はボルグの退役を取り消し、王獣守護長に任じた。ラガンは彼の前で腹を見せ、門形の契約印を腕へ刻む。
命を救われた王太子は、馬車から降りてラガンへ謝った。さらに翌朝から自分で革靴の汚れを落とし、肉球の傷を確かめる。王族が地面へ膝をつく姿に廷臣はざわめいたが、ボルグは「門を見るなら、まず足元を見ることです」とだけ教えた。
ボルグが石段へ座ると、白虎は革靴の前足と大きな頭を膝へ載せた。冬毛は火酒よりじんわり温かく、長年の務めそのもののような重さが、老いた脚を誇らしく押した。