自販機が見ていた
歴史の試験中、新海田晴雅は腹痛を訴えて教室を出た。
戻ると、机の裏から年表が見つかった。
「離席して確認しに行ったんだろう」
監督の朝倉野佳乃教諭は、晴雅が廊下を長くうろついていたと記録した。成績首位の生徒も、戻った晴雅が机の下へ手を伸ばしたと証言する。
晴雅は保健室へ行っただけだった。だが保健室の先生は出張中で、受付記録もない。朝倉野は「証明できないなら不正扱い」と言い、推薦資格の停止を告げた。
晴雅は窓の外を見た。
「廊下の自販機、カメラ付きですよね」
前月、硬貨盗難があったため、自販機上部に防犯カメラが設置されていた。映像には教室入口から保健室前までが映っている。
試験開始二十分後、晴雅は腹を押さえて保健室へ向かい、扉の前で内線電話を使っていた。三分後、養護教諭と話し、休養室の鍵番号を教わって入室している。音声記録にも会話が残っていた。
その間、教室から出てきたのは朝倉野と首席生徒だった。二人は晴雅の机を廊下へ少し引き出し、裏へ紙を貼っている。
朝倉野は落とし物を戻しただけだと弁明した。
自販機のガラス面が、教室内を鏡のように映していた。拡大すると、首席生徒が紙へテープを貼り、朝倉野が机を押さえる手元まで見える。
さらに二人は自販機前で小声で話していた。
『戻ったら、机の下を触ったことにする』
『推薦枠、先生の言った通り僕にしてください』
晴雅は休養室から戻った際、椅子の位置が変わっていたため机を直しただけだった。そこも映像に記録されている。時刻表示は一度も途切れず、編集の余地もなかった。
校長は晴雅の不正認定を撤回し、推薦資格を即時回復した。朝倉野は試験監督を解かれ、首席生徒の答案は無効となる。
自販機会社の担当者が、証拠映像を学校へ正式提供した。受領書には撮影場所として〈二階廊下・飲料自動販売機〉とある。
推薦決定通知が晴雅へ渡された瞬間、二人が味方だと思っていた無口な自販機が、最もよくしゃべる目撃者になった。