自販機の温度
私は親友が好きだった。
親友は、同じクラスの別の人が好きだった。
そして、その人は私を好きだった。
きれいな三角形ならまだよかった。矢印は一方向へ回り続け、どこにも届かなかった。
放課後、体育館裏の自販機で、その人に告白された。
「ずっと好きだった」
予想していた。
親友の視線を追ううち、その人の視線が私へ向いていることにも気づいていた。
「ごめん」
私は答えた。
相手は笑おうとして失敗した。
「好きな人、いる?」
「いる」
「誰か聞いてもいい?」
言えなかった。
親友の名前を口にすれば、もう何も戻らない気がした。
そのとき、自販機の陰から音がした。
親友が立っていた。
手には温かいココア。缶がへこんでいるほど強く握っていた。
「聞いてた?」
私が聞くと、親友はうなずいた。
告白した人の顔が青ざめた。
三人とも何も言えなかった。
やがて親友が、その人へ向き直った。
「私、あなたが好き」
空気が止まった。
告白した人は私を見た。
その視線だけで返事が分かった。
「ごめん」
今度は、その人が言った。
親友の目から涙が落ちた。
私は抱きしめたいと思った。
でも、私が好きだと知られた直後に触れれば、慰めまで告白に見えてしまう。
親友は私へ怒った。
「どうして黙ってたの」
「言えなかった」
「私があの人を好きって知ってたから?」
「それも」
「それ以外は?」
私は答えなかった。
親友は笑った。泣きながら。
「ほんと、最悪の三角形」
告白した人も目を赤くしていた。
自販機の下へ、買ったばかりの缶を落とした。拾おうと三人同時にしゃがみ、頭をぶつけた。
誰かが笑い、それにつられて全員が笑った。
笑っているのに、涙は止まらなかった。
温かいココアは三本あった。
親友が私の分を押しつけた。
「今日は友達として隣にいて」
「うん」
「それ以上は、今は無理」
「分かってる」
告白した人は少し離れて座った。
三人で壁にもたれ、ぬるくなるまで缶を持っていた。
翌日から、私たちは同じ教室で気まずく過ごした。
親友と恋人にはなれなかった。告白した人とも元どおりではない。
それでも、あの日から嘘だけは減った。
冬が終わるころ、自販機の温かい飲み物が売り切れた。
私たちの片思いも、同じように季節商品ならよかったのにと思った。