芝生の上のラジオ
白石川春名は、休日の公園へ小さなラジオを持っていく。
携帯でも音楽は聴けるが、選び続けるのに疲れる。ラジオなら、知らない曲も天気予報も、向こうの都合で流れてくる。
日曜の朝、春名はサンドイッチを作った。
ハムと胡瓜、卵、最後に粒マスタードを少し。誰かと分けるなら種類をそろえるが、一人なので三切れとも違う具にした。
魔法瓶へ紅茶を入れ、毛布と一緒に籠へ詰める。
公園の芝生はまだ朝露で湿っていた。
大きな木の下へ毛布を敷き、靴を脱ぐ。ラジオをつけると、古い洋楽が小さく流れた。
春名は本も持ってきていたが、開かなかった。
犬を散歩させる人、凧を上げる親子、ベンチで将棋をする二人。見ているだけで、頁よりゆっくり時間が進む。
卵サンドを食べる。
パンは少し押しつぶれていたが、マスタードの酸味がよく合った。紅茶の蓋を開けると、ベルガモットの香りが風へ広がる。
ラジオでは、誰かの葉書が読まれていた。
〈休日に何もしないと、不安になります〉
司会者は少し考え、「何もしないことを予定に入れては」と答えた。
春名は笑った。
自分も手帳へ〈公園〉と書いてきた。何をするかは空欄だった。空欄だから落ち着かなかったのに、今はその白さが芝生の広さに似ている。
昼近く、風が強くなった。
毛布の端がめくれ、サンドイッチの包み紙が飛びそうになる。春名は石を一つ置き、また寝転んだ。
木の葉の隙間から、雲がゆっくり動く。
ラジオの電池が切れた。
急に静かになったが、代わりに鳥の声と遠い笑い声が聞こえた。毛布の端を小さな蟻が歩き、パン屑を一つ抱えて草へ降りた。春名はその行き先を目で追い、予備の電池を持っていたが交換しなかった。
帰るころ、芝生の湿りは消え、毛布が日に温まっていた。
籠には空の包み紙と、飲み切れなかった紅茶が少し。
春名は靴を履き、ラジオをしまった。何もしなかった休日は、粒マスタードと草の匂いをたっぷり抱えていた。
次の日曜の欄にも、同じように〈公園〉だけを書こうと思った。