薬師が量った水

川霧村で腹を壊す者が増えた。

村人は湿地の悪霊を疑い、祈祷師は銀貨を集めた。だが薬師フェルノは、患者の家を一軒ずつ訪ね、飲み水を細い硝子瓶へ取った。

井戸に近い家ほど、瓶の底に黒い粒が多い。

「悪霊ではありません。雨水と厩の汚れが、浅井戸へ流れ込んでいます」

村長は井戸を封じようとした。

「では、明日から何を飲む」

「深い井戸を掘ります。封じるのは、代わりができてからです」

フェルノは必要な金額を薬包紙へ書き、診療所の壁一面に貼った。

石工代、鉄管、砂利、蓋。各家の負担は銅貨一枚。ただし銅貨の代わりに、焼いた砂利一袋、煮沸用の薪一束、作業半日でもよい。病人の家は免除。

集まった物と使った物は、秤で量り、毎夕数字を直す。余った金は祈祷にも宴会にも使わず、井戸の検査費として残す。

「病気になった家だけが得をする」

元気な農夫が言った。

フェルノは二本の瓶を日へ透かした。

「今日まだ症状がない家も、同じ水を飲んでいます。これは誰かの病気ではなく、皆の入口です」

翌日、農夫は一番大きな薪束を持って来た。

祈祷師も逃げなかった。銀貨を返し、井戸蓋へ刻む清めの文句を無償で引き受けた。迷信を捨てたのではない。祈る前に汚れを止める、と決めたのだ。

子どもたちは砂利を洗い、石工は深い層まで筒を落とした。

十日後、手押し棒から最初の水が出た。

フェルノは歓声を制し、硝子瓶へ採る。

朝まで置き、煮沸し、匂いを確かめる。翌日、診療所の前に二本の瓶を並べた。

古い井戸の水は底が濁り、新しい水は光だけを通した。

「飲んでいい」

その一言で、村人たちの肩がほどけた。

最初の杯は、最も重い症状から回復した少女へ渡された。

少女は慎重に一口飲み、残りを弟へ差し出す。

井戸脇の掲示板には、費用の数字と並んで新しい欄が増えた。

――今週の濁り、なし。

――腹痛の新患、なし。

硝子瓶の向こうで水面が陽を返し、悪霊より確かな透明さで、村の朝を満たしていた。