薬草店の傷は朝に閉じる
ウルバンは市立治療院の薬庫係だった。
白い制服の裾は薬液で黄ばみ、胸には夜間呼び出しの札が三枚重なっていた。人を救う仕事だから断るな、と言われ続け、熱があっても倉庫へ走った。
辞めたあと、川辺の薬草店を買った。古い壁には湿気が回り、棚は傾き、雨漏りが薬包紙を濡らした。
だが店は、薬草と同じように自分の傷を治した。夜になると柱から樹液がにじみ、腐った部分を押し出す。屋根の穴には乾いた葉が重なり、朝には硬い板へ変わる。割れた瓶も透明な樹脂で元へ戻った。
客は診療所の処方札を入口の箱へ入れる。棚が必要な薬草を量り、封をして受取口へ出す。代金と公的補助は自動精算されるため、ウルバンが常駐しなくても薬は届く。
《自動調剤手数料、入金。今月の生活費を確保》
その直後、治療院長から赤い通信が来た。
『薬庫が回らない。今夜だけ戻れ。患者が困る』
胸の奥が痛んだ。患者という言葉を出されると、以前の彼なら靴を履いていた。
「薬は、私の店から供給できます」
『人手が足りないのだ』
「なら雇ってください」
『予算がない。善意で助けろ』
ウルバンは静かに息を吐いた。
「善意を勤務表に組み込まないでください」
『見捨てるのか』
「見捨てません。処方分は自動で届けます。でも、無給の夜勤は引き受けません」
返答を送ると、雨粒で窓枠に新しい割れが走った。樹液がすぐ染み込み、傷を閉じる。治すことと、傷つき続けることは同じではない。
受取口では、咳をした少年の母親が処方薬を受け取っていた。棚は注意書きを読み上げ、夜の分まで小袋に分ける。母親はウルバンを見つけて礼を言ったが、「店が用意しました」と答えると、不思議そうに笑った。人を助けることが、必ずしも自分を差し出すことではない。彼が休んでも仕組みは動き、薬は届く。治療院が恐れさせていた罪悪感が、川風の中で少しずつ薄くなった。
ウルバンは配達設定を確認し、通信端末だけを切った。川岸へ出て靴を脱ぎ、釣り糸を垂らす。
薬箱は今夜も必要な人へ届く。だから彼は、誰にも必要とされない時間を、自分のために使うことにした。