装備中の時計

雨森ソウシは《刻盗りサドン》へ銀時計を投げた。

《停止時計》

装備中、装備者本人の時間を停止します。

周囲の時間には影響しません。

「時間停止の神器か!」

サドンは空中で時計を奪い、迷わず腕へ装備した。

彼の身体が完全に止まる。

ソウシの仲間たちも動ける。落下中の瓦礫も、燃える城も動き続ける。止まったのはサドン一人だけだ。

攻略掲示板では《装備中、時間を停止》までしか表示されず、神器だと噂されていた。説明窓を横へ広げたときだけ、《装備者本人の》という語が見える。

「こんな単純な罠に」

仲間が笑い、サドンを攻撃しようとする。

ソウシは止めた。時間停止中の対象はダメージも状態異常も受けない。殺せない代わりに、本人も何もできない。

城の崩壊まで二分。

彼らはサドンを担ぎ、避難門へ運ぶ。時計を外せるのは装備者だけなので、時間停止は解除できない。

「なぜ敵まで助ける」

「ここに置けば、解除された瞬間に瓦礫の下だ」

安全地帯へ着き、全員で時計が外れるのを待つ。装備には一時間の自動解除がある。

停止中のサドンには一瞬だった。目を開けると、城は消え、自分は警備兵に囲まれている。

「俺の神器を盗んだな!」

時計は彼の腕から自動的に外れ、元の所有者ソウシへ戻る。

「盗ったのはあんた。説明を途中まで読んで」

サドンの犯罪履歴には、停止した一時間も逃走不能時間として記録されていた。

《停止時計の装備を解除》

《装備者サドンの主観経過:0秒/世界経過:60分》

サドンは停止中の一時間を「奪われた」と主張した。ソウシは反論しない。実際、彼の主観から一時間は消えている。

ただ、その時間に城から避難した者の一覧を見せる。

世界を止める力なら、誰も救えなかった。本人だけが止まったから、他の全員は動き続けられた。

停止時計は証拠品として封印され、説明窓は最初から全文表示へ修正された。それでも次の見学者は「もし世界を止められたら」と口にする。欲望はスクロール幅より長く残った。

《時間支配者を訂正――世界を止める神器ではなく、説明を急いだ者だけを世界から一時間置き去りにする拘束具です》