裏面に残る告発
野々宮大地は、投票用紙を裏返し、鉛筆で臼杵宗一の氏名を書いた。
和久井茜音が囁く。
「記入欄は表よ」
「表は消される」
規則は一行。
〈十分後、投票用紙に裏切り者の氏名が残っていた者を解放する〉
大地は開始前、係員が見本用紙へ書いた文字を見ていた。黒いペン跡は、投票箱の上にある照明へ近づけた瞬間、薄く消えた。
配られたペンは熱で透明になるインク。投票箱の内部には強いランプがあり、表面を照らす構造になっている。大地は通気孔から漏れる熱も、指先で確かめていた。
主催者は、三人が正解を書いても文字を消し、誰も当てられなかったという映像を作るつもりだ。頭脳戦の形を借りた処刑だった。
大地は卓上の規則板を固定していた鉛筆を抜き、用紙の裏へ書いた。裏側は厚い遮熱膜に覆われ、箱のランプが届かない。
「宗一が裏切り者だという根拠は?」と茜音が訊く。
大地は宗一の手元を示した。彼だけに配られたペンには、消去用のインクではなく油性表示がある。主催者は裏切り者の票だけを残し、正解を知っていた証拠として彼を次へ進める予定だった。
宗一が用紙を隠す。
「推測だ」
「なら、君のペンで僕の名前を書いてみろ」
宗一は答えない。
残り十秒。茜音も裏へ書こうとしたが、投票箱が用紙を自動回収する。彼女の表面には宗一の名がある。しかし熱光が走り、文字は消えた。
大地の紙も箱へ入る。表は白紙。裏の鉛筆だけが灰色に残る。
〈野々宮大地――臼杵宗一〉
〈裏切り者と一致〉
大地の首輪が外れた。
『指定記入欄外の文字は無効です』
「規則は欄に残せとは言ってない。用紙に残せと書いてある」
大地は開いた出口で、白くなった茜音の紙を見る。
「推理を外した者を殺すなら、まだゲームだった。正解まで消すなら、ただの詐欺だ」
箱の照明が消える。遅すぎた暗闇の中で、裏面の氏名だけが最後まで読めた。