角に残る罪
クリュネの角は、罪を思い出すたび一節伸びた。
石室の天井まで、あと指一本。そこへ触れれば角の中の魔物が孵り、彼女の身体を着て外へ出る。
「また顔が浮かんだ」
クリュネは膝を抱えた。「橋の兵。赤い髭。私が斬った」
角が軋み、伸びる。
ヤハンは彼女の前に座り、両手で角を握った。角に残る記憶は、他人へ移せる。ただし入る場所を作るため、受け手の記憶が一つずつ押し出される。
最初に流れ込んだのは、赤髭の兵が倒れる瞬間だった。代わりにヤハンは父の顔を失った。
角が一節縮む。
次は、逃げる少年を背後から刺した記憶。ヤハンの中から故郷の川が消えた。
三人目。四人目。血の感触が掌へ増えるたび、彼自身の幼年、初恋、剣を取った理由が抜け落ちる。腰の剣を見ても、誰から習った構えなのか思い出せない。だが角を握る指だけは、離すという選択を忘れてくれなかった。
「離して」
クリュネが泣いた。「それは私が持つべきものだ」
「持てば、おまえでなくなる」
「おまえが私になる」
角はあと二節だった。
次の記憶は、燃える家から出てきた女を斬った夜。ヤハンは母の声を失った。耳の奥には知らない女の断末魔だけが残る。
最後の記憶が角の先端に黒く光っていた。
クリュネは激しく抵抗した。「それだけは見るな」
ヤハンはさらに強く握った。
流れ込んだのは、彼の弟が斬られる光景だった。刃を持っているのはクリュネ。呪いに操られ、泣きながら振り下ろしている。
胸が裂けるほどの怒りが生まれた。同時に、ヤハンという名、その名を呼んだ弟の声、なぜ彼女を救おうとしたのかが押し出された。
角は根元から砕けた。
クリュネの額に人の肌が戻る。彼女は倒れた男を抱き起こした。
「ヤハン。私が分かる?」
男は目を開いた。自分の掌にないはずの血を見て震え、額を探る。角がないことに驚く。
「ヤハンって誰」
そして彼は、クリュネと同じ声の震え方で言った。
「私の名は、クリュネ」
石室には角を失った女が二人残った。一人だけが元の顔をしており、もう一人の瞳には、奪われた罪と名前が黒い節となって伸び始めていた。