誤送信した未来

「間取り図は、暮らす人を決めてから見なさい」

比留間友梨は、引っ越し好きの姉にそう言われていた。日当たりや収納へ夢中になり、誰と住むかを後回しにするからだ。

更新時期を迎えた友梨は、一人用の部屋を探していた。けれど気になったのは、広い台所と小さな書斎がある二人向けの物件。台所では川井悠馬が休日にカレーを作り、書斎では友梨が在宅勤務をする光景が、勝手に浮かんだ。

悠馬とは五年の友人で、互いの部屋を行き来している。友梨の家には悠馬専用のマグカップがあり、悠馬の冷蔵庫には友梨の好きなヨーグルトが切れずに入っていた。けれど彼は以前、「同居したら友達ではいられなくなる」と言った。友梨はその言葉を拒絶だと思い、一人用だけを内覧してきた。

姉へ間取り図を送るつもりで、メッセージを添えた。

《ここ、悠馬となら住みたい》

《友達でいられなくなるなら、その先になりたいって思ってる》

送信先は悠馬だった。

友梨は内覧を断ろうと不動産会社へ電話した。だが約束の時間、物件の前に悠馬が立っていた。メジャー、筆記具、二人分のスリッパまで持っている。

「誤送信だから、来なくていいのに」

「間取り図だけじゃ分からない」

室内へ入ると、悠馬は冷蔵庫の幅を測り、書斎のコンセントを確認した。最後に申込用紙を受け取り、《入居希望者》の一人目へ友梨の名前を書く。二人目は空けたまま、ペンを渡した。

友梨はそこへ《川井悠馬》と書きかけ、続柄欄で止まる。《友人》の選択肢に丸をつけず、《交際相手》の横へ小さく印を入れた。

悠馬は何も言わず、その上から濃く丸を重ねる。書類を持つ友梨の手へ、自分の手も重ねた。

「ここに決める?」

「暮らす人が決まったら」

「今、決めた」

内覧を終えても、二人は手をつないだまま駅へ歩いた。いつも別々の家へ分かれる交差点で、今日は同じ不動産会社の封筒を二人で持った。悠馬のスマホには、来週の家具店、翌週の鍵の受け取りが登録される。

間取り図は暮らす人を決めてから見る。

誤送信した未来は、その部屋より先に、二人の続柄を決めた。