赤文字が鳴らす前

朔弥が魔導機関所へ着いたとき、床には焼けた歯車が三つ転がっていた。

古代機械の操作札はすべて同じ黒文字で訳されている。

『蒸気弁を閉じること』

『月油を補給すること』

『核温度が九十を超えた場合、直ちに退避すること』

掃除の注意も、爆発の警告も、同じ大きさ、同じ調子。職員は一日に二百枚の札を見ているうち、どれも読まなくなった。今月の火傷は十四件だった。次の大事故が起きれば、王都の灯りを作る機関所そのものが閉鎖される。

「文字は全部正しい」

主任翻訳官は責任を拒んだ。

前世で工場の安全表示を設計していた朔弥は、警告を三段階に分けた。

赤い札――今すぐ離れなければ死ぬ。

橙の札――操作を誤れば重傷。

白い札――機械を長持ちさせる注意。

長い説明は裏へ回し、表には信号語と一つの行動だけを書く。読ませる文章ではなく、危険度を見た瞬間に身体が動く札へ変えた。

『危険 九十以上なら退避』

『警告 停止後に弁を開ける』

『注意 週に一度、油を足す』

主任が「下品な赤だ」と眉をひそめた瞬間、警報針が八十八を指した。

職員の一人が、炉の横の赤札を見る。いつもなら主任を呼びに走るところで、その場から退避鐘へ手を伸ばした。針が九十へ触れる前に退避鐘を叩き、全員が扉の外へ出た。九十二で安全栓が破裂し、白い蒸気が室内を覆う。

以前なら説明札を読み上げるだけで二分かかった。今回は最初の鐘まで六秒、全員退避まで十九秒。負傷者は零だった。蒸気が晴れると、破裂した安全栓は誰もいない通路へ落ちていた。

修理後の一週間、赤札が使われたのは二回。どちらも事故前に停止した。火傷は十四件から零。軽い油切れも、白札を見た当番が補給して一件も起きない。停止時間は週合計十一時間から二時間へ縮んだ。

機関長は焼けた歯車三つを朔弥の机に並べ、その上へ新しい発注書を置いた。

「黒文字二千枚は全部外す。三段階の札を五百台分作れ」

主任翻訳官が抗議するより先に、機関長は契約金の箱を開いた。

「安全表示翻訳官として正式採用だ。次は鐘が鳴る前に、赤で止めろ」