迷宮帰りの逆さサンド
迷宮口の食堂《地上側》には、天井にも椅子が固定されている。店主セツが冗談で付けたものではない。反転罠にかかった冒険者のためだ。
それでも実際に使われたのは、開店八日目が初めてだった。
扉が開き、冒険者グラムが仲間の投げた綱に引かれて入ってくる。仲間は戸口から手だけを離し、本人は天井へ落ちた。重力の向きが彼だけ逆になっている。三時間後までに直らなければ、反転が固定され、二度と地面を歩けない。
「解呪院は谷の向こうだ。ここから出れば空へ落ちる」
天井の椅子へ腰を下ろしたグラムは、青ざめていた。水を飲もうにも杯の中身は彼にとって上へ落ち、口へ届かない。
セツは《逆さサンド》を一つ作った。普通なら下にする黒パンを上へ、上にする白パンを下へ。間の焼き肉と酸菜も、迷宮壁に刻まれていた罠の紋様と反対の順に重ねる。崩れないよう糸草で一周だけ巻いた。
「食べ物で解けるなら、解呪師はいらない」
「罠の文字に『口に入れた順を地とする』とありました。迷宮の料理罠は、腹で答えるものです」
セツは長柄の籠で、天井の客へサンドを渡す。グラムは片手で椅子へしがみつき、もう片手で一口かじった。
酸菜の鋭さ、肉の脂、二種類のパン。噛んだ順に、呪いの紫光が足先から腰へ移る。二口目で髪がふわりと天井から離れ、三口目には匙が床と天井の間で一瞬止まった。
「待て、急に戻ったら落ちる!」
セツは床へ厚い布を敷いた。
グラムが最後の一口を飲み込む。紫光が舌の上で裏返り、次の瞬間、彼の体は正しい地面へ落ちた。布の上で大の字になり、しばらく天井を見つめる。
それから恐る恐る立つ。右足、左足。靴底は床を踏み、頭は天井へ落ちない。
「地面だ」
彼は膝をつき、床板を両手で叩いた。迷宮を踏破したときより嬉しそうだった。
代金を尋ねると、グラムは金貨ではなく、迷宮第五層の地図を卓へ広げた。そこには反転罠の位置と、同じ紋様が七か所記されている。
「この地図を食堂に貼ってくれ。助かった奴から、一人一枚分の代金を取れ」
「あなたの分は?」
「先払いする」
彼は金貨を置き、《逆さサンド》をもう一つ注文した。
「今度は罠のためじゃない。地面に座って、味を確かめたい」