途中の頁に眠る妖精

図書館の閉館後、司書は返却された本の間から、紙のように薄い妖精を見つけた。

栞の羽を持ち、眠そうに目をこすっている。

「いつか続きを読むつもりで閉じた頁の間でしか、眠れないの」

妖精は、読み終えた本にも、読むのを諦めた本にも入れないらしい。

その本は、子ども向けの長い物語だった。

借りていた少女は、半年間、同じ頁で返却と再貸出を繰り返している。

司書は期限を守るよう注意し、別の本を勧めてきた。

翌日、少女がまた借りに来た。

「まだ終わっていないの?」

司書が尋ねると、少女は本を抱えた。

母親と毎晩一章ずつ読んでいたが、母親は途中で亡くなった。

一人で続きを読むと、母親を置いて物語の先へ行く気がする。

だから同じ頁を開いては閉じるという。

司書は、

「最後まで読まなくてもいい」

と言いかけた。

妖精が机の陰から首を振る。

少女は、諦めたいわけではない。

いつか読みたい。

けれど今日ではない。

司書は貸出期限をさらに延ばす代わりに、図書館で本を預かる提案をした。

窓際に小さな箱を置き、

「途中の本」

と札を付ける。

少女が来た日にだけ、自分で取り出す。

妖精は箱の中、開かれた頁へ潜り込み、すぐ眠った。

数週間、少女は本へ触れなかった。

図書館へ来て別の絵本を読み、妖精へ小さな紙の布団を作った。

司書は続きを促さない。

冬の午後、少女が箱を開けた。

母親と最後に読んだ頁を、声に出さず一人で読む。

次の頁へ指をかけ、止めた。

「今日は、一行だけ」

少女は言った。

一行読み、また閉じた。

妖精は次の頁の間へ移って眠った。

それを何度も繰り返した。

春、少女は物語の最後へ着いた。

泣くと思っていたが、

「面白かった」

と笑った。

「お母さんにも教えたかった」

そのあとで少し泣いた。

妖精は最終頁には眠れない。

羽を広げ、図書館の棚の間へ飛んでいった。

別の途中を探すらしい。

司書は「途中の本」の箱を片づけなかった。

読み終えられない人、終えたくない人、まだ一行しか進めない人のために残した。

物語を止めることと、捨てることは違う。

続きを待つ頁を丁寧にもてなせば、読む人が自分の速さで戻ってこられる日がある。