金鎖を着けない叙勲
伝令兵イリスは、首に何かを巻かれるのが苦手だった。
幼い頃の拘束具の跡が、今も薄く残っている。
叙勲式の控室で、侍従が重い金鎖を持ってきた。イリスが後ずさるより早く、騎士団長ハーゲンが箱を閉じる。
「使わない」
「勲章は鎖で首へ掛ける決まりです」
「別の方法を」
彼は銀細工師へ、胸元へ留める軽い留め具を作らせていた。イリスが襟の詰まった服さえ避けることを、遠征中から知っていたのだ。
「痛くないか」
「大丈夫です」
ハーゲンは普段、傷を理由に休みたいと申し出た騎士へ診断書だけを求め、感情的な言葉を返さない。けれどイリスの首元へは、自分から一度も触れなかった。
式が始まると、国王は金鎖を見て眉をひそめた。
「正式な形で着けなさい」
イリスは胸の留め具へ手を置く。
「首には掛けたくありません」
「王家の勲章を拒むのか」
「勲章は受けます。鎖は受けません」
国王はハーゲンへ命じた。
「お前が着けてやれ。団長の手なら怖くあるまい」
広間が静まる。
ハーゲンは金鎖を受け取ったが、イリスへ近づかなかった。
「着けない」
「余の命令だ」
「本人が拒んだ」
「一時の恐怖を克服させるのも上官の務めだ」
ハーゲンの目が冷える。
「恐怖を見世物にしないのが務めだ」
彼は金鎖から勲章だけを外し、イリスが選んだ留め具へ付け替えた。取りつけるかどうかも、本人へ渡す。
イリスは自分の手で胸へ留めた。
胸へ留めた勲章は、金鎖よりずっと軽かった。ハーゲンは傾いていないか目で確かめたが、直すために手を伸ばさない。イリスが自分で位置を整えるまで、式全体を黙って待たせた。
ハーゲンは全員へ向けて一言だけ告げる。
「これが正式だ」
国王が反論しようとすると、公文書へ団長印が押された。
「今後、叙勲具は受章者が選ぶ。イリスの首へ、名誉を理由に何も掛けるな」