鉄板の端の豚平焼き
比嘉征吾は、妹から届いた「十五万円だけ貸して」というメッセージを、六時間も未読のままにしていた。
資格学校の受講料が足りないらしい。母には頼めず、消費者金融の画面まで開いた、と書いてあった。助けたい。子どものころ、妹が学校で困ったときはいつも征吾が迎えに行った。その役目を今も降りてはいけない気がしていた。けれど征吾にも余裕はない。引っ越しで減った貯金を戻すため残業を増やし、ようやく十万円を超えたところだった。
全部渡せば、自分の家賃が危うい。来月には更新料もあり、体調を崩して残業できなくなれば、すぐに赤字へ落ちる。断れば、妹がもっと高い利息を選ぶかもしれない。
仕事帰り、征吾は鉄板のある居酒屋へ入った。客はほかにいなかった。豚平焼きを一つ頼む。
溶き卵が鉄板へ広がり、じゅうっと丸い音を立てた。焼けた豚肉を包むと、甘いソースの匂いが湯気に混じる。店主が端からへらを入れ、黄色い生地の内側を見せた。
征吾は中央へ箸を刺そうとして、卵を崩した。
「端からだと、まとまりやすいですよ」
店主が言った。
端の一切れを小さく切る。全部を一度に持ち上げなくても、豚平焼きは皿から逃げなかった。
征吾は妹のメッセージを開いた。明日、昼休みに電話する。文字だけでは、拒絶に見える数字もある。声で困り方を聞いてから、自分の限界も声で伝える。貸せるのは五万円まで。それ以上は無理だと先に言う。学校の分割払いが使えないか一緒に調べ、残りの費用と返す時期を紙に書く。自分が借金してまで穴を埋めることはしない。
妹は冷たいと言うかもしれない。五万円では足りず、結局別の借り方をするかもしれない。家族の金は、決めた境界どおりに収まらない。母から責められるかもしれず、妹との会話が険しくなるかもしれない。それでも、黙って全額を渡して後から恨むより、先に限界を見せたかった。
それでも、全部かゼロかで考えて未読を続けるより、持てる端から話す。
最後の一切れはソースを多く吸い、卵の内側にまだ熱があった。甘さのあとに豚肉の塩気が残り、征吾は未読の印を消してから、ゆっくり飲み込んだ。