銀粉を吸った鉱夫たち
国家銀山から聖女メルシェナが追放された最初の勤務で、坑夫四十人が咳きながら倒れた。
坑道崩落ではない。目に見えない銀晶の粉が、掘削の振動で舞ったのだ。坑夫たちの唇は青くなり、咳をするたび細かな光が血に混じった。
鉱山長ラグネスは布で口を覆わせた。だが粉は布の目より細かく、濡らせば呼吸そのものが苦しくなる。治癒術で肺の傷を閉じても、残った粉がまた内側から裂いた。
「今までも同じ層を掘っていたぞ!」
測量士は坑道入口の小さな聖皿を示した。そこには、昨日まで毎朝メルシェナが集めていた銀色の泥が残っている。
彼女は坑夫を直接癒やしていたのではない。空気中の粉へ祝福を与え、重くして皿へ落としていた。採掘量を増やす奇跡ではないため、鉱務省は「利益を生まぬ聖女」と国外へ追い出した。
坑道は閉鎖された。銀の納期は守れず、貨幣鋳造所まで操業を止めた。省が高価な送風魔道具を入れても、粉は奥へ押し戻されるだけだった。
省は高価な防塵仮面を配ったが、銀粉が濾過石へ詰まり、十呼吸で息ができなくなった。坑夫は仮面を外すか窒息するかを迫られ、再開命令を拒否した。銀相場は昼までに跳ね上がり、国が発行する新貨幣の予定日まで白紙になった。
坑夫の家族は坑口へ集まり、再開より検査を求めた。鉱山長の命令に従う者は、もう一人も残っていなかった。
同じころ、陶工の町ではメルシェナが窯場の入口へ浅い皿を置いていた。親方ターヴが、皿へ落ちた白い粉を指でなぞる。
「釉薬の粉で肺を悪くする職人が多かった。こんなに吸っていたのか」
「見えないから、ないことにはなりません」
町は全工房へ聖皿を設置し、メルシェナを労働衛生官として迎えた。職人たちは彼女の祈りを作業時間に含めた。
夕刻、鉱務大臣の命令書が届いた。
――国家事業を止める行為は反逆である。直ちに帰還し、坑道を再開せよ。
メルシェナは町の採用証書を命令書の上へ置いた。
「国家銀山の粉塵沈降契約は、国外追放の執行をもって終了しました」