鍵守の死

月岡シズクの剣先は、鍵守ミュラの喉元で止まっていた。

《所有権システム》

NPC所有のアイテムは、所有者が死亡したときだけ取得できます。

最終門を開く《天環の鍵》は、ミュラの胸に埋め込まれている。攻略条件は明快だ。彼女を殺せば鍵が落ちる。

「早くやれ!」

背後では魔物の群れを仲間が支えている。時間はない。

ミュラは抵抗しなかった。

「私は毎日、ここで殺されます。そして門が閉じるたび、また鍵守として作り直されます」

シズクは剣を下ろす。仲間が代わりに斬りかかり、彼女は盾で防いだ。

「じゃあ、鍵を渡して」

「所有権は譲渡できません」

ミュラの首には役職札が下がっている。

《鍵守》

所有物:天環の鍵

任期:死亡まで。

シズクは札を見つめた。所有者は《ミュラ》ではなく、《鍵守》と表示されている。死ぬべきなのは彼女ではなく、役職なのではないか。

「鍵守を辞められる?」

「その選択肢はありません」

「選択肢がないだけで、できないとは書いてない」

シズクは役職札の紐を剣で切った。ミュラは札を拾い、迷った末に自分で真二つに折る。

《所有者“鍵守”の死亡を確認》

胸から鍵が光となって抜け、床へ落ちた。ミュラは倒れない。名前の横から役職だけが消えている。

仲間が鍵を拾い、最終門を開く。向こうには財宝ではなく、無数の役職札が吊られていた。《宿屋娘》《生贄》《裏切り者》《魔王》。誰もが役割の死と本人の死を同じものにされていた。

ミュラは最初の札へ手を伸ばす。

《天環の鍵を取得しました》

《所有者死亡条件を達成》

《死亡者:役職“鍵守”》

役職札の部屋では、NPCたちが自分の札を見つめていた。すぐに折る者もいれば、仕事そのものは好きだと結び直す者もいる。

ミュラは《鍵守》の札だけ拾わなかった。

「鍵を守ることは嫌いではありません。でも次は、死ななければ辞められない役には就きません」

最終門の鍵は、彼女が自分で閉め直した。

《生存者:ミュラ――役割を失っても残る者を、役割そのものとは定義しません》