鏡の中の八十一

霧島航は壁の救命シートを広げ、十八番扉の前へ斜めに立てた。銀色の面に数字が左右逆で映り、監視カメラの画面には〈81〉が現れる。

藤森寧々の扉は七十。彼女は勝利を確信していたが、頭上の比較表示が七十から八十一へ跳ね上がるのを見て言葉を失った。

規則は一行だった。

――監視カメラに最も大きい番号を示した扉の前にいる者を勝者とする。

肉眼で見れば、航の扉は十八にすぎない。だが判定対象は人の目ではなく、監視カメラに示された番号だ。数字は細い縦棒の1と、左右対称の8で描かれている。鏡に映せば順序が反転し、81として読める。

「鏡が示してるだけで、扉が示した数字じゃない!」

寧々が叫ぶ。

航はシートの角度を少し調整した。画面には扉枠ごと反射している。カメラが見ているのは、鏡の中の十八番扉そのものだ。

主催者は映像判定の公平さを誇るため、規則へわざわざ「監視カメラに」と入れた。人間の審判なら後から揉める。機械なら絶対だと考えたのだろう。けれどカメラは、像が直接光か反射光かを区別しない。

航は開始前、救命シートの袋に「鏡面仕上げ」とあるのを見つけていた。非常時の保温具を撤去できなかったのは安全規定のためだ。さらに番号の書体は、反転しても成立するものだけが使われている。七十の0は鏡にしても七十のまま。十八だけが大きく化ける。

寧々が自分の七十を鏡へ向けようとするが、彼女の鎖はシートまで届かない。航は両足で端を押さえ、残り一秒を待った。

ゼロ。

〈カメラ認識値、八十一。最大値を確認〉

寧々は扉へ描かれた十八を指さし続ける。しかし判定画面には、規則どおりカメラの像が保存されている。

航の首輪が外れた。

「数字の向きを決めるのは、書いた人じゃない」

彼は銀のシートを畳む。

「読む目がどこにあるかだ」

鏡像の八十一が消えても、勝者表示だけは八十一のまま固定された。