閉館五分前の告白
閉館五分前になると、司書の先生は机のランプを一つずつ消した。
その日、図書室に残っていたのは僕と彼女だけだった。
彼女はカウンター当番。僕は返却期限を過ぎた本を読み終えようとしていた。
「あと何ページ?」
「十二」
「無理」
「速く読む」
「内容、残らないよ」
彼女は椅子を片づけながら、何度も時計を見た。僕が帰らないせいで困っているのだと思った。
実際は、僕も本を読みたいわけではなかった。卒業まであと一週間。図書室へ来る理由がなくなる前に、言うつもりだった。
好きです、付き合ってください。
頭の中では何度も言えた。静かな室内では、その言葉だけが大きすぎた。
残り三分。
彼女が窓を閉めた。
残り二分。
僕は同じ段落を読み直した。
残り一分。
司書の先生が職員室へ鍵を取りに出た。
彼女がカウンターの向こうから言った。
「言わないの?」
本を落としそうになった。
「何を」
「毎日、閉館まで残ってる理由」
ばれていた。
僕は本を閉じた。
「この本が面白くて」
「先週から同じページ」
時計の秒針が進んだ。閉館時刻になり、廊下のチャイムが鳴った。
彼女は『閉館』の札を出した。
「時間切れ」
胸が沈んだ。
すると彼女は図書室の扉を内側から閉め、鍵をかけずに戻ってきた。
「利用時間は終わり。図書委員の雑談は、あと五分」
逃げ道まで用意され、僕は余計に言えなくなった。
「卒業したら」
ようやく出た言葉は、告白の最初ですらなかった。
「ここ、来なくなる」
「卒業生は入れないからね」
「君とも会わなくなる」
彼女は黙って待った。ページをめくるときのように、僕が次の言葉へ進むまで急かさなかった。
「会いたい」
それだけだった。
好きとも、付き合ってとも言えなかった。
彼女は貸出カウンターの引き出しから、図書室の利用案内を一枚出した。裏に駅前の市立図書館の開館時間を書いた。
「日曜、十時」
「それ、返事?」
「予約票」
「何の本?」
彼女は僕が読めなかった本を取り上げた。
「これ。二人で続きを読む」
司書の先生が戻り、私語を注意した。僕らは同時に「すみません」と言った。
卒業後の日曜、市立図書館で彼女を待った。十時ちょうど、同じ本を持って現れた。
最後の十二ページは、二人で読んでもすぐ終わった。
けれど読み終えたあとも、閉館まで帰らなかった。