雨雲の外の配達員

料理配達サービスのサポート席で、塩谷未景は配達員から怒鳴られた。

「店の前にいるのに、到着ボタンが押せない」

アプリ上では配達員がジオフェンスの外にいる。店は川沿いの商業施設にあり、地図の印は対岸の駐車場を指していた。豪雨で川は増水し、近道の地下通路も閉鎖されている。

注文はすでに調理済み。配達員は橋を回って店へ向かうと言うが、二十分かかる。未景は根性で取りに行かせるのを止めた。

「今いる側の駐車場から動かないでください。地下通路には入らないで」

店へ電話すると、別の配達員が入口で待っていた。別注文のキャンセル直後で、まだ商品を持っていない。未景はその人へピックアップを付け替え、最初の配達員には対岸で受けられる次の注文を割り当てた。

再配車だけなら簡単だが、元の注文情報を残したまま二人に表示させると、双方が同じ商品を受け取ることがある。未景は店側の受け渡し番号が更新されたのを確認し、古い番号を無効にしてから動かした。

店には、作り直しを始める前に保温状態を確認してもらった。受け渡す人を替えただけで、品質まで自動的に戻るわけではない。店が問題ないと判断した時刻を記録し、客には到着見込みだけを先に知らせた。遅延理由を長く説明するより、届く時間を確定するほうが役に立つ。

商品は予定より六分遅れで客へ届いた。店にも配達員にも損失は出ず、誰も増水した地下通路を通らずに済んだ。

最初の配達員は、最後に小声で言った。

「走れば行けたと思いますけど」

「行ける道と、使っていい道は違います」

未景は地図の誤った位置を修正申請し、雨天時の通行止め情報も記録した。画面の点は、川を挟んでいても数十メートルしか離れていない。現場では、その数十メートルに水が流れている。

地図修正が反映されるまで、店名の横には「川の東側」と注意書きが付いた。

通話を終えると、次の配達員がつながった。

「店は見えるんです。でも線路の向こうです」

未景は距離ではなく、渡れる道から確認した。