雪崩羊の鈴を外す

山の祭壇から雪崩羊が下りてきた。

城壁ほど高い双角、雪をまとった白い毛。ひとたび角を振れば山肌が崩れるとされ、麓の者は戸を塞いだ。

神殿兵は鎮めの鐘を鳴らした。

その音が響くたび、雪崩羊は激しく頭を振り、斜面から雪煙が落ちる。

羊飼いのフェルミは、恐怖より先に違和感を覚えた。

神獣の首元からも、同じ音がしている。

毛刈りが遅いと仲間に笑われても、彼女は皮膚の皺へ刃を入れないことを優先してきた。だからこそ分かる。雪崩羊の毛は首だけ不自然に固まり、鈴が鳴るたび、その下の皮膚まで引っ張られていた。

分厚い毛の中に、古い青銅の鈴が埋まっていた。仔獣の頃に奉納された首飾りが、成長した首を締めつけているのだ。

「鐘を止めて! 音が痛みを思い出させてる」

神官は、聖具を外せば神罰が下ると言った。

フェルミは腰の毛刈り鋏を抜いた。

「神さまへの贈り物なら、神さまを苦しめていいはずがない」

一人で雪原へ進む。

雪崩羊が角を下げた。地面が震え、誰もが攻撃だと思った。

しかし角の先は、フェルミの左右へ静かに置かれた。

首元を見せる姿勢だった。

「毛を少し切るね。春にはまた生えるから」

凍りついた毛を鋏で割り、鈴の革紐を探す。

皮膚は赤く擦れ、呼吸のたび紐が食い込んでいた。フェルミは鋏の刃を寝かせ、神獣を傷つけないよう少しずつ切る。

鈴が雪へ落ちた。

小さな音だった。

フェルミは切った毛を丸め、擦れた首へ薬草油を塗る。雪崩羊は鼻息で彼女の帽子を飛ばしたが、怒ってはいなかった。舌で一度だけ、乱れた髪を大ざっぱに舐め戻す。

それから神獣は、山から重荷が消えたように長く息を吐いた。首を振っても、もう何も鳴らない。斜面の雪も静かなままだ。

神官が鈴を拾おうとすると、大きな蹄がその前を塞いだ。

雪崩羊はフェルミの隣へ座り、刈られた首筋を彼女の肩へ擦りつける。

「痒いの? まったく、仕方ないなあ」

指で掻いてやると、双角の間から白い光がこぼれ、フェルミの鋏へ羊角の紋が刻まれた。

次いで巨大な頭が膝へ沈む。雪のような表面の下には乾いた綿毛が幾層もあり、抱えれば夏の寝床より温かい。両脚が痺れるほどの重みさえ、鈴のない静けさの中では心地よかった。