雪解けの返書

初雪の日、庭へ手紙を埋めると、居場所を誰にも告げず町を出た人へ届く。

返事があれば、春の雪解けと一緒に地面へ浮かぶ。

姉が消えて十二年。

母の介護を巡って妹と争い、

「全部あなたに任せる」

という置き手紙だけ残した。

電話番号も住所も変わり、捜索願を出しても事件性はないと言われた。

妹は毎年、初雪へ手紙を埋めた。

「母が亡くなりました」

「家を売ります」

「あなたを許していません」

「生きているなら返事をください」

春になると、濡れた封筒が一通だけ浮かんだ。

中身はいつも同じ。

「生きています。探さないでください」

それだけでも、妹は次の冬まで暮らせた。

同時に、腹が立った。

姉は自分の安全だけ知らせ、介護を押しつけた理由を説明しない。

十三年目の初雪。

妹は責める手紙を書かず、質問を一つにした。

「毎年返事をするのは、なぜですか」

春、返書は少し長かった。

「あなたが、私を死んだ人にしないから。

でも会えば、私はまた家族の役へ戻される気がします」

姉は介護から逃げただけではなかった。

幼い頃から「しっかりした姉」で、父の死後は家計を支え、母の世話も当然のように任された。

限界を言えず、ある朝、全部を置いて逃げた。

妹へ負担を渡した事実は消えない。

それでも、帰ればまた役目を引き受ける自分が怖いという。

妹は返事を読んで泣き、土へ向かって怒鳴った。

「私は戻ってこいとしか書いてなかった」

次の冬。

「帰ってこなくていい。

介護を一人へ置いたことは、いつか話してほしい。

会わなくてもいいので、あなたが今好きな食べ物を教えてください」

春の返書。

「辛い麺。

昔は嫌いだった。

あなたは?」

妹は、姉と同じ辛い物が苦手だった。

今も苦手だと次の雪へ書いた。

往復は一年に一度。

住所も、仕事も、家族がいるかも教え合わない。

代わりに、読んだ本、病院へ行ったこと、髪を短くしたことを少しずつ書いた。

二十年目、雪解けの封筒に、

「来年、町の駅で一時間なら会えます」

とあった。

妹はすぐ喜べなかった。

会えば許さなければならない気がした。

返事は翌冬まで送れない。

一年考え、初雪へ埋めた。

「会います。

許すかどうかは、その場で決めません。

一時間を一時間のまま終えてもいいです」

春、返事はなかった。

代わりに駅名と日時を書いた切符が、庭の土から出てきた。

再会の日はまだ先だった。

妹はもう、姉を家族へ戻すため待ってはいない。

役目を持たない二人として、一時間だけ同じベンチへ座るため、春から予定を空けている。