雹を一滴に畳む赤傘

葡萄丘の麓にある古道具店〈晴れ待ち〉は、三十日続く雨の中で開店した。

店主パルメアは空を変える魔法を持たない。それでも店先には、骨が二本折れた赤い傘を広げている。雨粒は穴を抜けるはずなのに、傘の下だけ不思議なほど土が乾いていた。

葡萄農家コルバンが、空より暗い顔で入ってきた。

「今夜、この丘へ拳ほどの雹が降る」

天候読みの神殿が警告を出した。収穫直前の畑が一度でも打たれれば、一年分の葡萄が潰れる。領主への借金を返せず、先祖代々の丘を永遠に手放すことになる。

「畑全体を覆う結界は買えない。せめて種葡萄の一列だけでも守りたい」

「一列と言わず、丘ごと守れます」

パルメアは赤傘を畳み、柄の先にある透明な小瓶を示した。

「この傘は雨を防ぎません。持ち主が守ると決めた土地へ落ちる一度の嵐を、瓶の中の一滴へ畳みます」

「こんな破れ傘で?」

「破れは、七つの村を守った印です。八つ目に耐えられるかは、あなたが開いてみなければ分かりません」

夜、コルバンは赤傘を畑の中央で開いた。

翌朝、彼は傘を抱えて店へ戻った。骨はさらに一本曲がっていたが、柄の瓶には銀色の雫が一粒揺れている。丘の周囲は白い雹で埋まり、葡萄畑だけが無傷だった。

「雹はどこへ?」

「その一滴に。畑へ垂らせば、砕けた氷ではなく水として戻ります」

コルバンが店先の鉢へ一滴落とすと、乾いた土へ春雨のような水がしみ込んだ。

彼は声を上げて笑った。

「これで今年の葡萄は、雨にも雹にも負けなかった味になる」

収穫後、コルバンは値札分の銀貨と、最初に搾った葡萄汁の瓶を持ってきた。

「酒になる前の味だ。借金を払い、丘も残った」

余分な金貨を置こうとする彼へ、パルメアは曲がった傘骨を指した。

「次の嵐までに、修理代を貯めてください」

「なら毎年ここへ持ってくる。俺の畑と同じで、継ぎながら使う」

赤傘を肩へ担いだ農家が雨上がりの坂を登る。

雲間から光が差した瞬間、店内で二度目のドアベルが鳴った。