飛竜百頭分の餌代

竜騎士団の朝訓練は、一頭も空へ上がらず終わった。

飛竜百頭が餌場の柵を蹴り、騎手を背中から振り落としたのだ。飼育長が倉を開けると、肉桶は予定の半分しか届いていない。

「注文は百頭分出した!」

肉商人は契約書を示した。

「冬麦相場に連動して価格が上がりました。送金額で買える分だけ納めました」

飛竜用肉の価格は、家畜飼料である冬麦の相場に応じて毎月変わる。経理担当コレットは指数を確認し、必要量が減らないよう予算を調整していた。

騎士団長はその仕事を「市場の噂を写すだけ」と笑い、前日、彼女を砦から追放した。新任係は先月と同じ金額を送っただけだった。

空腹の飛竜は命令笛を無視し、とうとう団長の赤い羽根飾りを食べた。国王が視察に来る昼までに編隊飛行はできず、式典は中止。竜騎士団の威信は、噛み跡のついた帽子とともに地面へ落ちた。

さらに空腹の二頭が柵を越え、王の儀仗馬用の干し草を食べ尽くした。飛竜は肉食だが、腹が減れば旗も鞍も噛む。広場には羽根飾り、手綱、式典幕の切れ端が雪のように散った。

肉商人は不足分を掛けで出すことを拒んだ。先月分の価格差も未精算で、騎士団の信用は飛竜の腹より空だった。

山麓の牧場では、コレットが新しい飼料契約を結んでいた。価格上昇時は余剰干し肉を放出し、下落時に備蓄を増やす条項付きだ。

牧場主は満腹になった幼竜が彼女の手へ鼻を寄せるのを見て笑った。

「この子らの腹と、うちの財布を同時に守れる人は初めてだ」

牧場では飼料量と成長記録も並べて公開され、騎手は自分の幼竜が何を食べて育つか初めて知った。無駄な餌は減ったのに、一頭も空腹にならない。コレットの契約書は、百の胃袋へ同じ安心を配った。

夕方、騎士団の伝令が噛まれた外套のまま現れた。

「団長が財務騎士の称号を授けるそうだ。明日の訓練までに戻ってくれ」

コレットは幼竜の来月分まで発注書へ記した。

「称号をいただく契約はありません。旧騎士団との契約は、追放日に終了しました」