魔王陛下が試験官になった
異界から呼び出されて一時間。左近寺大河の冒険者登録試験には、五人の審査官が並んでいた。
剣術、魔術、探索、礼法、忠誠。大河が中央の鑑定球へ手を置くと、どの担当札にも光が入らない。
「魔力ゼロ。五人で見る価値もない。犬にでも判定させたほうが正確だ」
主席審査官が欠伸をした。
大河の視界には、鐘の形をした能力が浮かぶ。
《最適審判招来》
対象一件を最も正確に評価できる存在を、一度だけその場へ呼ぶ。
試験官自身を呼び直すこともできた。だが、最初から結果を決めた人間に正しさは期待できない。自分の強さを誰が一番正確に知っているのか。神か、賢者か、未来の自分か。迷った大河は、試験名をそのまま対象へ指定した。
――左近寺大河の冒険者等級判定。
《最適審判招来》を使う。
小さな鐘が一度鳴った。召喚陣は使われず、空間そのものが来客のために扉へ形を変えた。
受付の中央に黒い扉が現れ、内側から角のある男が出てくる。豪奢な外套、夜色の王冠、背後に浮かぶ十二本の魔剣。壁の討伐手配書と同じ顔だった。
魔王本人。
上級冒険者が武器を抜き、審査官たちは机の下へ隠れた。だが魔王は誰にも目を向けない。大河を見た瞬間、十二本の魔剣を消し、王冠を両手で押さえた。
「なぜ、お前がもうこちらへ来ている」
大河には心当たりがない。
魔王は震えながら説明した。未来視の祭壇が、王国を滅ぼす可能性のある者を毎日映す。その最上段に、百通りすべての未来で大河の顔が出ているという。
「剣を持てば我を倒す。杖を持てば魔界を封じる。商人になれば兵糧を買い占め、料理人になれば我が軍を寝返らせる。何を選んでも結末が同じだ」
主席審査官が机の下から声を絞る。
「で、では判定を……」
魔王は審査用紙を奪い、《等級・判定不能》《危険度・未来全域》《推奨対応・最大限の敬意》と書いた。最後に魔王印を押し、大河へ両手で渡す。
それから敵国の王は、審査席の前で直立した。
五人の審査官も、遅れて立つ。
犬に判定させろと笑われた新人の前で、世界最大の敵だけが、最初から正しい顔をしていた。