鶏団子は同じ形でなくていい

授業中に泣いた生徒へ、僕は何も言えなかった。

新任の教師になって四か月。答えを間違えた生徒を、クラスの何人かが笑った。止めるべきだと分かったのに、教室の空気を壊すのが怖くて、次の問題へ進んだ。放課後、生徒は保健室へ行った。僕は職員室で退職サイトを開いた。机には、明日使う小テストが人数分積んである。採点基準だけは作れたのに、今日の沈黙をどう直すかは、どの教本にも書いていなかった。

駅裏の居酒屋へ初めて入ると、無口な常連が一人いた。カウンターの柱には、子どもの描いた店主の似顔絵が貼られている。端が剥がれてくると、常連は黙って指で押さえ、店主がテープを持ってくるまで待った。

鶏団子汁を頼んだ。鍋の中で団子がことこと鳴り、生姜と出汁の匂いが立ち上がる。椀には大きさの違う団子が三つ浮かび、湯気が眼鏡を白く曇らせた。

一つを割ると、軟骨の粒が見えた。ふわりと柔らかい部分と、こりっとした歯応えが同時に来る。二つ目は少し楕円で、箸から転がりかけた。

「形、揃えてないんですね」

僕が言うと、店主は鍋を見たまま答えた。

「浮けば、まあいい」

教師なら正しい言葉をすぐ出せると思っていた。実際は、教室で声が出ない。だから辞めるか、向いているふりを続けるか、その二つしかないように考えていた。

柱の絵を留め終えた常連が、浮いたテープの角を爪で押した。絵は上手ではない。頭は大きく、腕は左右で長さが違う。それでも剥がさず、直して残している。

僕は明日、学年主任へ授業を見てほしいと頼む。泣いた生徒には、笑いを止めなかったことを謝る。何と声をかければいいか、養護教諭にも相談する。許してもらえるかは分からない。次の授業でまた失敗するかもしれない。それでも退職の入力欄を埋める前に、教室へ戻る手順を一つ作る。

最後の団子は形がいちばん歪だった。生姜の熱い汁を含み、噛むと軟骨が小さく鳴った。喉を通ったあと、胸の内側に、出汁の温度が丸く残った。