麦畑の鏡壁

平原のオルフ村では、初夏になると銀羽虫の群れが麦へ降りた。薬を撒けば穂まで枯れる。村人は夜通し鍋を叩いたが、虫は朝になると戻ってきた。

硝子職人パルサは、畑の東端に細い鏡板を並べる防壁を提案した。

「朝日を群れへ返します。虫は強い光を嫌う。畑を覆う必要はありません」

鏡は高価だったため、先払いの税は取らなかった。収穫後、守られた畑十畝につき麦一袋。ただし昨年より収穫が増えなければゼロ。集めた麦は鏡代へ換え、支払額に達した時点で徴収終了。割れた鏡の交換費は、以後一畝につき一握りとした。面積、収穫差、残債は広場の秤の横へ公開する。

大農家ダンは疑った。

「収穫が増えたかどうか、誰が決める」

「昨年、領主へ申告した袋数を使います。私の見積もりでは決めません」

嘘をつけば昨年の税申告まで嘘になる。誰も数字を曲げられなかった。

鏡代を払うのは収穫後。それなら失敗しても借金にならない。農家たちは自分から土台石を運び、畑を持たない硝子工房の弟子は欠けた鏡を磨いた。鍋を叩いていた老人たちは、光の角度を見るため白布を掲げた。

最初の試験では、鏡の光が農家の窓へ入り、朝食の皿を白く照らしてしまった。パルサは失敗を隠さず角度表へ赤い印を付け、鏡を一枚ずつ半指下げた。追加の留め具代は自分の工房が負担すると申し出たが、農家たちは共同試験で決めた変更だとして一畝一釘ずつ出した。責任を押しつけず直した鏡は、翌朝には窓ではなく空だけを映した。

完成翌朝、銀羽虫が空を曇らせた。群れが麦畑へ傾く。日の出とともに鏡壁が一斉に光り、白い帯を空へ放った。虫は大きくうねり、畑の手前で向きを変えて湿地へ流れていった。

秋、秤の前に昨年より多い麦袋が積まれた。ダンは約束の一袋を置き、パルサは残債板の数字を一つ消した。

鏡壁の中央には、新しい札が掛かっていた。

――実った後に払う。実らなければ、払わない。

その下で最初の一袋が共同倉へ運ばれ、鏡には金色の畑が途切れず映っていた。