『退院後に届いた苦情』

契約更新面談で、病棟看護師は三枚の苦情票を見せられた。

「患者への説明不足、乱暴な処置、夜間の無視。更新はしません」

看護師長は冷たい声で告げた。看護師は、三人の患者を担当していないと否定したが、苦情票には病室番号と日付が書かれていた。

事務担当が、退職した病棟クラークのファイルを開いた。名前は「退院日を先に見てください.xlsx」。

看護師長は「事務員の記録より患者の声が優先だ」と言った。

一覧には患者の入退院日と担当看護師が並んでいた。一人目は苦情の日の二日前に退院。二人目は別病棟へ転棟済み。三人目の苦情日は、看護師が研修で院外にいた。

「日付の書き間違いでしょう」

看護師長はそう言ったが、三枚とも同じ日に作成されていた。更新時刻は午前六時十八分。病棟クラークの退職翌日だった。

事務担当は複合機のスキャン履歴を示した。苦情票を取り込んだ職員番号は看護師長。原本三枚の筆跡も、患者ごとに違うはずなのに同じだった。

「聞き取りを代筆しただけです」

では聞き取りはいつ行ったのか。電話記録を調べると、患者宅へ発信した履歴はない。病室の面会記録にも、看護師長が訪れた形跡はなかった。

退職者のファイルには、看護師長からのメールが保存されていた。

――次の副師長には自分が推薦する者を置く。候補の契約看護師は、苦情三件で更新不可にする。患者名は退院済みから選べば確認されにくい。

CCには病棟クラークが入っていた。看護師長は誤送信に気づき、「削除してください」と追送していたが、クラークはファイルへ残した。

看護師は、なぜ自分が狙われたのか悟った。現場の投薬ミスを正直に報告し、看護師長の推薦者ではなく自分が副師長候補になっていたからだ。

事務担当は契約終了通知を閉じた。

「更新不可を撤回します」

人事担当が続けた。

「副師長選考も再開します。あなたを第一候補へ戻します」

看護師長が机を叩く。

ドアの外から医療安全責任者が入り、苦情票を回収した。

「師長の勤務継続については、こちらが面談します」

更新書類に押された印は、三枚の偽の苦情より重かった。