『封筒の二重折り』

昇進面談の机に、二つ折りの匿名告発状が置かれていた。

〈滝本理沙は部下の改善案を自分の成果として提出した〉

上司の壬生陽介は、課長昇進を見送ると告げた。

「内容が具体的すぎる。内部の誰かが傷ついている」

滝本は、改善案は共同提案だったと答えた。壬生は署名欄に滝本しかいないと紙を叩く。

人事の篠塚公平は、告発状を開いて閉じた。

「この封筒、二度折られていますね」

一度目は三つ折り、二度目は中央で半分。匿名箱の投入口に入れるだけなら、三つ折りで足りる。半分の折り目には、青い複写紙の粉が付いていた。

篠塚は前週の昇進委員会資料を持ってこさせた。評価票を収める青いファイルの内ポケットは、A4を半分に折らないと入らない。利用記録では、壬生が会議後にファイルを持ち帰り、翌朝返している。

壬生は偶然だと言った。

「なら、電子版を見ましょう」

会議室予約〈昇進者確認〉の添付資料に、〈滝本告発・案〉という削除済みファイルが残っていた。作成者は壬生。最終版と同じ誤字〈功積〉があり、更新時刻は匿名箱の回収前夜だった。

さらに改善案の共有履歴では、滝本が部下三人を共同作成者へ設定している。提出直前、壬生が権限を変更し、滝本以外の名前を非表示にした。壬生自身の企画として役員会へ出すため、滝本を先に昇進候補から落とそうとしたのだ。

「部下のためを思って匿名にした」

壬生の言葉に、滝本は首を振った。

「部下の名前を消したのは、あなたです」

篠塚は見送り票を裏返した。

「滝本さんの課長昇進を承認します。共同提案者三名の評価も訂正します。壬生部長は選考権限を失います」

篠塚は共同提案者三人を面談室のスピーカーへつないだ。三人は滝本から名前を消すよう求められたことはなく、逆に壬生から〈課長になりたいなら黙れ〉と指示されたと証言した。匿名状にある専門用語の誤用も、壬生が普段のメールで繰り返すものだった。滝本は自分だけの昇進ではなく、三人の評価が戻るまで承認書へ署名しないと言った。その一言で、告発状が作ろうとした人物像も崩れた。

二重の折り目は、告発状を隠した場所まで開いて見せた。