『育休中の零点』

雲雀住宅の復職査定で、外園麻耶は係長から一般職への降格を告げられた。

育児休業中の六か月について、売上、訪問件数、提案件数がすべてゼロ。年間平均が基準未満になったという。上司の三國篤生は「数字は平等だ」と言い、降格同意書を差し出した。

「休業期間は評価対象外のはずです」

「制度が変わった」

人事担当が評価表の数式を表示する。本来、休業月には〈対象外〉という文字が入り、平均計算から除外される。ところが麻耶の行だけ、その六セルが数字の0へ置き換えられていた。

三國は「システム移行の誤変換」と説明した。

版履歴を戻すと、移行直後は〈対象外〉のまま。評価締切日の二十時九分、三國が六セルを一つずつ0へ入力している。同時に、麻耶が休業前に獲得した大型契約の担当者名も、三國自身へ変更されていた。

「引き継いだから私の実績だ」

麻耶は契約確定メールを開いた。顧客が承認したのは休業開始の前日で、担当者は麻耶。CCには三國も入り、〈外園さんの提案で決定〉と顧客が明記している。三國が担当者名を変えたのは、管理職賞与の算定会議を予約した十分前だった。

さらに会議室予約の添付資料には、〈外園降格により係長枠を空ける〉と書かれていた。その枠へ推薦されているのは、三國が前職から呼び寄せた社員だった。

人事担当は制度変更通知を検索したが、一件もなかった。同じ時期に介護休業を取った男性社員の欄は、正しく〈対象外〉のまま。三國は麻耶の評価だけを複製して別名保存し、変更前ファイルの削除申請まで出していた。申請理由は〈女性活躍集計の重複〉という皮肉なものだった。

「家庭の事情で働けない期間があったのは事実だ」

三國の言葉に、人事担当は首を振った。

「働いていない期間と、働けなかった人の価値は同じではありません」

降格同意書は回収され、原評価Aと係長職が復元された。休業中に失われるはずのなかった賞与も再計算される。

最後に三國の管理職賞与が保留へ変わった。

六つの零が消えたとき、査定表に残った最低点は、三國の公平性だった。