おでんの境目

冬の週末、泉郷の家ではおでんを二日かけて食べる。

初日は大根、卵、蒟蒻。二日目に練り物を足す。夫の恭弥は初日の薄い出汁が好きで、泉郷は二日目の濃い味が好きだった。

金曜の夜、二人で鍋を仕込む。大根へ隠し包丁を入れ、卵の殻を剥く。

「ちくわ、今日入れよう」

「明日」

毎年同じ交渉になる。

今年、恭弥は小さな鍋をもう一つ出した。出汁を半分移し、片方だけ練り物を入れる。

「最初から二日目」

二つの鍋が並び、台所は狭くなった。

食卓で交換して味を見る。薄い大根、濃いちくわ。泉郷は恭弥の鍋から卵を取り、恭弥は濃い出汁を少し自分の椀へ足した。

結局、境目はすぐ曖昧になった。

翌日、二つを大鍋へまとめる。味はいつもの二日目とも違う。

昼に遊びに来た友人は「今年の出汁、深い」と褒めた。

二人は顔を見合わせた。

日曜の夜、最後にうどんを入れる。大根は崩れ、卵は一つだけ。

半分ずつ分けて食べた。湯気には昆布、醤油、練り物の甘さ。初日と二日目、二人の好みが煮込まれ、どちらの味とも言えない温度になっていた。

翌冬から、小鍋は使わなくなった。大鍋の右側へ練り物、左側へ大根と卵を入れ、中央を蒟蒻で仕切る。完全には分かれず、煮るうちに出汁が行き来する。恭弥は薄い側から取り、泉郷は濃い側から食べ、最後に中央の蒟蒻を半分ずつ分ける。来客は妙な配置だと笑った。日曜のうどんを入れる頃には仕切りもなくなり、鍋底は同じ色になる。二人の好みは守られたまま、湯気だけが一つだった。

空になった鍋を洗うと、蒟蒻の仕切りがあった線だけ薄く見えた。泉郷が指でなぞり、恭弥が布巾で拭く。昆布の匂いは境目なく、二人の袖へ同じように移っていた。

翌朝、布巾にも出汁が少し香った。泉郷は干す場所を恭弥の上着の隣にし、冬の風へ二人分の湯気を預けた。

夕方には布も上着も乾き、昆布の香りだけが同じ場所に残った。