お化け屋敷の本物担当
遊園地のお化け屋敷で、閉園後も白い女が廊下を歩いた。
新人係員の瓜生島絃人は、先輩たちを呼んだ。
「閉園アナウンス後に一人残ってます」
メイク担当が言う。
「白い女役は全員退勤した」
機械担当は壁を叩く。
「人形の自動走行だ」
「うちの人形は足がない」
「ではメイク担当の残業」
「勤務記録を幽霊扱いしないで」
監視カメラには、白い女が各部屋の小道具を動かす姿が映っていた。
絃人が声を落とす。
「本物が演出を直してる」
メイク担当は機械担当を見る。
「昼間、井戸の人形を落としたでしょう」
「だから井戸の霊が?」
「管理責任は機械班」
「霊の所属部署まで決めるな」
支配人も加わった。
「客に見つかれば宣伝になる」
絃人が驚く。
「除霊しないんですか」
「安全確認が先だ」
「本物なら?」
「出演契約を」
メイク担当が言う。
「ギャラは誰の予算?」
機械担当は営業を指す。
「集客効果があるなら広告費」
支配人は頭を抱える。
「幽霊を採用する前に正体を見ろ」
支配人は念のため契約書を二種類持った。
「人間用と、その他用です」
絃人が尋ねる。
「その他用の住所欄は?」
「没年月日で代用する」
メイク担当が言う。
「雇う前提が強すぎます」
「人手不足なんだ」
四人は暗い館内へ入った。
白い女は、棺桶の蓋を閉め、床の血糊を拭き、骸骨を棚へ戻している。
絃人が震える。
「几帳面な霊だ」
メイク担当は言う。
「生前、清掃員だったのかも」
「死後の職歴を推測しないで」
白い女が振り返り、四人へ近づく。
支配人が名刺を差し出した。
「まず雇用形態のご相談を」
女は白布を脱いだ。
中にいたのは、夜間清掃会社の責任者だった。新人清掃員が、お化け役の衣装を防塵服だと思って着用し、館内の片付けをしていたという。
「血糊を本物の汚れだと思って、かなり落としてしまいました」
支配人が青ざめる。
「明日の演出が」
機械担当はメイク担当を見る。
「再施工はそちら」
メイク担当は絃人を指す。
「最初に本物と言った人が手伝って」
絃人は支配人を見る。
「採用を提案した方が」
清掃員はため息をついた。
本物の怪異より、後始末の押しつけ合いの方が長く残った。