すべった話の置き場所

 環奈は、送ったメッセージを読み返して、三回目には笑えなくなった。

〈今日の紹介された人、「休日は自分磨きです」って言うから、何で磨くんですかって聞きそうになった〉

 友人三人との「反省会」というグループチャットだ。恋人探しの食事やアプリで起きたことを、深刻になりすぎないよう報告する場所だった。これまでなら一分以内に、笑い泣きの絵文字が並んだ。

 けれど金曜の二十二時、送信から二十七分たっても既読はゼロだった。

 話がつまらなかったのではなく、まだ読まれていないだけだ。分かっているのに、環奈は文中の読点まで恥ずかしくなった。「紹介された人」という書き方は偉そうかもしれない。「何で磨く」は相手を馬鹿にしすぎたかもしれない。そもそも自分も、帰宅後にシートマスクを貼っている。

 テーブルには、食事の帰りに買った小さなプリンがある。レシートの時刻は二十一時二分。相手と別れて三分後に買っていた。店ではお互い丁寧に話し、次の約束をしないまま、駅の改札前で丁寧に別れた。失敗と呼ぶほどでもない。ただ、二時間ぶん疲れた。

 環奈はシートマスクの袋を開けた。冷たい布を顔にのせると、スマホの顔認証が通らなくなった。暗証番号を打ってまでチャットを確認する自分がおかしくて、今度は少し笑えた。

 送信取り消しの期限はまだ残っている。消せば、冗談が受けなかった可能性も消える。けれど読まれていない冗談は、すべったのではなく、まだ床に置かれているだけだ。

 環奈はプリンの蓋を開けた。カラメルが片側に寄っている。スプーンですくうと、想像より甘かった。

 今日会った相手を悪者にする必要も、自分を選ばれなかった人にする必要もない。話が合わなかった二時間を、友人に笑ってもらえないと回収できないわけでもない。

 マスクの終了時間を知らせるタイマーが鳴る。環奈はメッセージを消さず、スマホを伏せた。

 返事が来る前に、自分で一度笑えた。今夜の話には、それくらいの置き場所があればよかった。