たい焼きの尾から
穂波は父と商店街を歩きながら、たい焼きを尾からかじった。
父はすぐに言った。
「行儀が悪い。頭から食べろ」
「どっちからでも味は同じ」
「見た目の問題だ」
「私が食べるものだから」
二年ぶりに会って、最初の会話がこれだった。父が待ち合わせ場所を喫茶店ではなく商店街にしたのは、「歩きながらなら気まずくない」と考えたからかもしれない。だが父は、たい焼き屋で穂波の分まで勝手に小倉を買った。穂波が今はカスタードを選ぶことを知らない。
彼女は自分でもう一つ、カスタードを買った。小倉は父へ返す。
「二つも食べられん」
「じゃあ買う前に聞いて」
「昔は小倉だった」
「昔は選ばせてもらえなかった」
父はたい焼き二匹を紙袋に入れた。穂波は焼きたてのカスタードを尾から少しずつ食べた。薄い皮が割れ、熱いクリームが舌に触れる。
「今日は何の話だ」
父が尋ねる。
「年末は帰らないって言いに来た」
「電話で済むだろ」
「電話だと、切らせてもらえないから」
「家族が集まる日だぞ」
「私は友達と過ごす」
「そんなものは別の日にできる」
「私も、別の日なら会える」
父は足を止めた。金物店の軒先で風鈴が鳴っていた。
「正月に父親を一人にするのか」
「一人にならないために私を呼ぶなら、そう言って」
「親が娘に頼むことか」
「命令されるより、頼まれるほうが聞ける」
父は紙袋を見下ろした。中のたい焼きの尾が二つ、口から出ている。
「……一人で食うには多い」
「一匹は冷凍できるよ」
「そういう話じゃない」
「分かってる」
穂波は残りを一口で食べず、ゆっくり尾の根元まで進んだ。
「一月の二週目なら、昼に会える」
「家に来るか」
「外なら」
「またたい焼きか」
「次は自分の味を自分で買うなら」
父はしばらく黙り、紙袋から一匹取り出した。頭を口へ運びかけ、向きを変える。尾を一口かじった。
「食いにくいな」
「別に真似しなくていい」
「俺が決める」
穂波は思わず笑った。父も笑ったわけではないが、頭から食べ直さなかった。
商店街の角で二人は別れた。父の紙袋には小倉が一匹残り、穂波の手は空だった。正月の席も空く。それでも一月の昼に、それぞれ選んだ味を持って会う余地は残っていた。