ひとり分のほうとう

小鳥遊明日音の前にだけ、ほうとうの麺が多く取り分けられていた。

大学時代の友人四人で借りた山梨の古民家。毎年冬に同じ鍋を囲む約束だったが、去年は明日音だけ誘われなかった。グループ写真が投稿されて初めて知り、「仕事だったから気にしない」と自分から書き込んだ。

そのあと何度も、投稿された鍋の写真を拡大した。自分がいつも座る窓際には荷物が置かれていた。偶然だと分かっていても、席ごとなくなったように見えた。チャットの未読をつけないまま、半年が過ぎた。

本当は、その夜からグループチャットを抜けるつもりでいた。

今年の招待も、人数合わせだと思っている。誘いの文面が全員宛てだったことまで、気にしていないふりをした。友人たちは去年のことに触れず、かぼちゃを切り、鍋を運んだ。

味噌とかぼちゃの甘い香りが立ち、厚い麺は噛むと中心だけ少し固かった。器は両手で持てないほど熱く、明日音は膝の上へ布巾を敷いた。

多すぎる麺を見て、「私だけ罰ゲーム?」と笑うと、友人の一人が小さく首を振った。

去年、明日音は仕事で大きな失敗をし、連絡を返さなくなっていた。皆は誘えば負担になると思ったらしい。相談して、あえて声をかけなかった。その判断が間違いだったと、今年は一人分を多くした。謝罪を言葉だけで終わらせず、去年空けた皿の分まで入れたのだという。

説明はそれだけで終わった。

明日音は麺を一本ずつ食べた。多さは埋め合わせの量に見え、食べ切れば去年を許したことになる気がした。

鍋の底から短い麺が一枚出てきた。友人が明日音の皿へ入れようとしたので、明日音は自分の長い麺を一本、鍋へ戻した。

「これは来年の分」

代わりに短い一枚を受け取った。

鞄の中には、グループを退出する前に書いた文面が保存されている。明日音はそれを消し、来年の同じ週末へ予定を入れた。

器には麺を一口だけ残した。埋め合わせを全部受け取る必要も、自分の寂しさをなかったことにする必要もない。

帰り際、残した一口は友人が保存容器へ入れた。蓋には〈来年までではなく、明日の朝〉と書かれていた。

約束は、一年分まとめて温めるものではなかった。